初めて読んだカフカは、新潮社から出ている「変身」だった。世の中の多くの人がそうではないだろうか? あれは高校生のときで、私は軽音楽部に所属していた。ロックバンドという響きに憧れ、大きな声で叫ばれた言葉こそ真実だと思い込んでいた。そこで組んでいたバンドのベースが、フランツ・カフカと顔がそっくりだったのだ。それだけの理由で私は「変身」を手に取った。 「変身」は救いのない話である。実のところ、初めて読んだとき私はその内容にあまりピンと来なかった。私の中にカフカという作家を受け入れる為の受容体が用意されていなかったのである。 こいつは凄い作家だぞと思い始めたのは、その数年後、大学入ってからのことで、「…