安部公房の“遺作”である『カンガルー・ノート』を読了。 読めばわかるが、本作は作者が自らの寿命を意識しつつ「性=生」と「死」の問題をモチーフとする中編である。大きな特色としては安部作品のなかでも特筆すべき「軽妙」さだろう。脛から生えてくるかいわれ大根。生命維持装置付きベッドでの彷徨。賽の河原でのひととき。メガネの看護婦。垂れ目の少女。ランニングを着ている小鬼たち……安部好みの意匠が続々と登場し、物語はシュールな盛り上がりを見せる。しかし『砂の女』のような内側に蓄積するイメージの濃密さはない。どこまでもオープンに、軽妙かつ滑稽にストーリーは時には読者を置き去りにしてぐいぐいと進んでいく。 安部が…