クラリッセ・リスペクトル

新年だぜ！ 書き忘れていたことを先に書く。昨日、K先生から日本語学科に所属する教員らが参加する食事会の誘いがとどいたのだった。そんな誘いがとどくのははじめてだった。といっても外教であるこちらを抜きにしてそのような食事会が定期的にもよおされていたわけではない、うちの日本語学科は単純におたがい没交渉であるのだ。そんな面々がわざわざ食事会を開催するとは、そしてまたこちらに出席をのぞむとは、これはもちろん日本語学科がおそらく今年いっぱいでなくなることを踏まえてのアレだと思うのだが、誘いは断った。食事会の開催は2日の夜であるが、Kさんは4日の昼までうちに滞在する予定なのだ。彼女を放っておいてひとり食事会…

１．「第五の季節３部作」（Ｎ．Ｋ．ジェミシン） ・第１部 第五の季節 ・第２部 オベリスクの門 ・第３部 輝石の空 「第五の季節」と呼ばれる破局的な天変地異が繰り返し勃発するたびに、文明が滅びてきた超未来の地球。今また新たな季節が到来しようとしている中で、地球と通じる能力を有するがゆえに差別されている「ロガ」の女性たちは、季節を終わらせることができるのでしょうか。彼らはなぜ存在しているのか。地球はなぜ人類を憎むようになったのか。圧倒的な謎を提示して始まる３部作は、決して「世界の終りの物語」ではないのですが、文明のあり方や危機に臨む人々の行動について考えさせられることの多い、「手強い」物語です。…

ソフィアの災難 作者:クラリッセ・リスペクトル 河出書房新社 Amazon これの続きです。 後半の14篇を読みました。 7/10(水) ・カーニヴァルの残り物 8歳の頃のカーニヴァルの想い出を語る掌編可哀想な少女。夢見がちなところが救いでもあるか。 8/1(木) ・家政婦の女の子 ひとりの凡庸で通俗的な「女性」のなかにある神秘についての掌編。主題も文体も、とてもリスペクトルらしい、名刺にしてもいいような小品。『星の時』っぽい。物語はなく、ただひとりの人物の描写だけがある。 ・めんどり 以前、ブラジル文学のアンソロジーで読んだことがあった。めんどりはリスペクトルがよく用いるモチーフだけれど、こ…

過去へのノスタルジックな潜航と、失われた未来を現在へと解き放つこと。それは、ともすれば単に打ち捨てられるべき反動的なものを歴史から拾い上げるだけの不毛な（もっと言えば危険な）企てに終わるにすぎないのだろうか。 この点に関して、ソ連からアメリカに亡命した比較文学者スヴェトラーナ・ボイムの『ノスタルジーの未来（The Future of Nostalgia：未邦訳）』という書物が示唆に富むヒントを与えてくれる。ボイムは同書のなかで、「ノスタルジー」を二つに分けるという作業を行なっている。すなわち、〈復古的ノスタルジー〉（Restorative nostalgia）と〈リフレクティヴ・ノスタルジー〉…

かつて推理小説化の殊能将之は、ウィリアム・ギブスンが古びない理由として、ギブスンがテクノロジーについてイメージしか描かず、細部をいっさい無視したからだ、と指摘していた。いつの時代になっても、エンジニアたちはギブスンが描いたイメージを最新のテクノロジーによって実現しようと試みる。ギブスンの「サイバースペース」は、その時代の最先端テクノロジーによって実現されることで時代とともにバージョンアップし続けるのだ。 （木澤佐登志『闇の精神史』より「「メタバースSF」の真の元祖」） 詩人のchoriの訃報。20日に肺炎による急性呼吸不全で亡くなったらしい。地元を出て、京都で暮らしはじめて本を読むようになりだ…

今日のオレのしょぼ昼めし（クラリッセ、そんなに見ないで！）盆休みは実家に帰り、後半台風が来そうというので早めに戻ってきた。帰省のお伴は有栖川有栖, 北村薫編『清張の迷宮 松本清張傑作短編セレクション』（文春文庫）。16日17日は出勤日で世間が連休中だから地獄の忙しさを覚悟していたのだけれど、台風の影響か、珍しくゆーっくり。電車はガラガラだし、毎日こうだったらいいのになあ。と思ったのは一瞬で、今日から容赦なくまたいつもの慌ただしい生活が始まってしまった。休みは儚い。朝からバッタバタ。やっと交代で昼休み。いつもと同じおにぎり二個と差入れのリポビタンDを流し込み、クラリッセ・リスペクトルのわかるよう…

自分自身が信じているナンセンスをだれか他の人が口走ると、それがナンセンスだとすぐにわかるというのは驚くべきことだ。フォルクスワーゲンラビットの中で、リンダとエリックが別の惑星からきた三つ目人の話をわめきたてるのを聞きつつ、ぼくはそいつらがイカれてるのがわかった。するとぼくもイカれてることになる。そう認識するとぼくは怯えた。あいつらと自分自身についての認識だ。 （フィリップ・K・ディック／山形浩生訳『ヴァリス』） 11時起床。注文した巾着型のサコッシュがとどいていたが、スマホと財布を収納することはできるけれどもKindleまでいれるとなるとパンパンで、文庫本も厚さによっては入るかどうかあやしい。…

「哀れみの至高の力」なんてひたすらでたらめだ。哀れみには何の力もない。ファットはグロリアに対して膨大な哀れみを感じ、シェリーにも膨大な哀れみを感じたが、どちらの場合にも雀の涙ほどの効果もなかった。何かが足りない。これはだれでも知っている。病人や死にかけた人間、病気や死にかけの動物をなすすべもなく見下ろし、ひどい哀れみを感じ、圧倒的な哀れみを感じ、そしてその哀れみが、いかに大きなものであっても、実はまったく役立たずだと気がついた人ならだれでも。 傷を癒したのは何か別のものだ。 （フィリップ・K・ディック／山形浩生訳『ヴァリス』） 11時起床。めだかが腹にたまごをくっつけているのを確認。夕方の餌や…

あの思春期の少女独特の、それ自体がどんどん一人歩きしてしまうような身勝手な美しさとでも言うべきものはもう彼女には二度と戻ってこないのだ。 （村上春樹『ノルウェイの森』） 11時半起床。Mさんからひきつづき微信。滋賀に遊びにきてほしいという話かもしれないと思って警戒していたのだが（出不精の極みだ！）、そういうことはなく、B-SIDE LABELというステッカーの店をおすすめされた。人気漫画やアニメのキャラステッカーがたくさん売っているらしい。学生らのお土産にいいと思いますよ、と。 階下に移動。起き抜けからウニとカニとイカとうなぎを食す。クソ美味い。きのうづけの記事に書き忘れていたが、廈門の空港に…

ついに文庫化されて今話題を呼んでいる『百年の孤独』。この機に乗じてラテンアメリカ文学をおすすめしたい…！と思って記事を書いた。 saganbook.com saganbook.com 今回も更なるおすすめラテンアメリカ文学を紹介したいと思う。 １．『ペドロ・パラモ』フアン・ルルフォ 杉山 晃、増田 義郎 訳 岩波書店 ２．『星の時』クラリッセ・リスペクトル 福嶋伸洋 訳 河出書房新社 ３．『寝煙草の危険』マリアーナ・エンリケス 宮﨑真紀 訳 国書刊行会 １．『ペドロ・パラモ』フアン・ルルフォ 杉山 晃、増田 義郎 訳 岩波書店 フアン・ルルフォの著作リストを見たら、そのあまりの短さに驚くかもし…