米国の小説家・詩人・彫刻家(1893〜1961)。小説家としては1930年代に『ウィアードテイルズ』などのパルプ雑誌で活躍した。スミスの小説を読んで作家を志したとレイ・ブラッドベリやハーラン・エリスンが語るなど、SFや幻想文学に及ぼした影響は大きい。ラヴクラフトと親交があり、クトゥルー神話大系の成立と発展にも貢献した。
クラーク=アシュトン=スミスがダーレスに宛てて書いた1934年7月22日付の手紙より。 僕はおよそ映画の愛好家ではないのですが、ジャンヌ=ダルクの映画は観てみたいですね。映画を鑑賞した夜はいつも眼精疲労から来る頭痛に悩まされるのですが、そういう映画なら頭が痛くなる価値もありそうです。 ダーレスからもらった7月3日付の手紙に対する返信なのだが、ここでスミスが言及しているのはカール=テオドア=ドライヤー監督の『裁かるるジャンヌ』だ。この映画は「世界四大名画のひとつといわれています」とダーレスの書簡にあるのだが、残りの三つは何なのだろうか。ともあれダーレスは気に入ったようで「これまでに私が観た中では…
1933年8月に「戸口に現れたもの」を完成させたラヴクラフトは清書稿を友達に送って意見を求めた。同年12月4日付の手紙でクラーク=アシュトン=スミスは次のように述べている。 エドワード=ダービーのキャラクターはよく書けていますよ。ひとつ非常に小さな提案があるのですが、我ながら自信がなく躊躇を覚えるものです。アセナスの亡骸を動かすという異常な能力がダービーにあったのは、彼もまた一方ならず黒魔術に精通していたからだと示唆(一文あるいは一言でいいと思います)を付け足すのはいかがでしょうか。とはいうものの、今のままでも暗に示されていることかもしれません。 スミスはラヴクラフトの原稿をロバート=E=ハワ…
順番からいえば今日はロバート=E=ハワードの日なのだが、代わりにシーベリー=クインの"Pledged to the Dead"を紹介したい。ウィアードテイルズの1937年10月号に掲載された短編で、現在はプロジェクト=グーテンベルクで無償公開されている。私の知る限り邦訳はない。 www.gutenberg.org ノーラ=マクギニスという若い女性がジュール=ド=グランダンとトロウブリッジ医師のところに駆けこんできて、許嫁のネッドがニューオーリンズに出張して以来おかしくなっていると訴える。ド=グランダンのもとに連れてこられたネッドが語るには、ニューオーリンズで謎めいた美女に会ったのだという。彼女…
アルジャーノン=ブラックウッドに"S.O.S."という短編がある。初出はThe Story-tellerの1918年3月号。余談だが、この月刊誌にはチェスタートンの「ブラウン神父」も何編か掲載されたことがある。 en.wikisource.org クリスマスの季節、語り手とドロシー(愛称ドット)と彼女のおじはジュラ山脈でスキーを楽しんでいた。昼から滑り続けて午後4時になり、3人は別荘に引き上げる。ドットにはハリーという恋人がおり、彼もいずれ到着するはずだった。待ちきれないドットはスキーを履いて出迎えに行こうとするが、おじさんが制止した。 「休んでおいたほうがいい」と彼はいった。夜のうちに4人で…
クラーク=アシュトン=スミスの"The Letter from Mohaun Los"を読んだラヴクラフトは1931年5月12日付のスミス宛書簡で「きわめて鮮烈で印象的」「夢中になって読みました」と感想を述べている。この作品をスミス自身は1931年8月18日付のダーレス宛書簡で「1万語の疑似科学小説」と呼んでいるが、現存するものは1万3000語近くあるので後に改稿されたのだろう。 www.eldritchdark.com 1940年に失踪した富豪ドミティアン=マルグラフが書いたとおぼしき手紙がバンダ海で発見された。透明な球体に入っていた手紙は別れた許嫁に宛てたもので、マルグラフが召使いの李と一…
"The Brahmin's Wisdom"という掌編がある。クラーク=アシュトン=スミスの作品としてCrypt of Cthulhuの27号(1984年万聖節号)に掲載されたが、真の作者が誰だったかは後述する。 www.eldritchdark.com 題名から察しがつくように、インドとおぼしき国の話だ。その密林からは恐るべき絶叫が絶えず聞こえ、僧院の人々を悩ませていた。密林の直中では魔神マドゥの巨大な石仮面が半ば沼地に埋もれており、その泣き声に違いないと人々は言い交わす。王様は恐怖のあまり一族郎党を引き連れて北に逃亡する有様だった。ちなみにマドゥというサンスクリット語の単語は実在するが、本…
クラーク=アシュトン=スミスの「プトゥームの黒い僧院長」はゾティークの物語だ。『呪われし地』と『ゾティーク幻妖怪異譚』に邦訳が収録されているので詳しい粗筋は不要だろうが、ルバルサという美少女をホアラフ王の後宮に連れていく兵士たちと宦官が泊まった僧院での出来事が語られている。 「プトゥームの黒い僧院長」の原稿は1935年2月にウィアードテイルズの編集部へ送られたが、ファーンズワース=ライトが書き直しを要求したため1500語ほど削られた後で1936年3月号に掲載された。邦訳はいずれもこの短縮版が底本になっているが、改稿されたせいで登場人物がひとり減ってしまっているので、かなり大きな影響があったとい…
ラヴクラフトは1934年8月の下旬に初めてナンタケット島を訪れたと『H・P・ラヴクラフト大事典』にある。この年のラヴクラフトはロバート=バーロウに招待されて5月から6月までフロリダに滞在し、その後ニューヨークに行ってロング一家と一緒にニュージャージーを観光、さらにジェイムズ=F=モートンと連れ立ってニューポートへ――と活発に旅行している。1934年は「ラヴクラフト・サークル」の全盛期といった趣があるが、ラヴクラフト自身もなかなか充実した日々を送っていたようだ。 ラヴクラフトはナンタケット島がだいぶ気に入ったらしく、いろいろな友達に宛てた手紙でその話をしているのだが、1934年9月8日付のクラー…
クラーク=アシュトン=スミスは1932年3月25日付のダーレス宛書簡でアルジャーノン=ブラックウッドの本の感想を述べている。 最近ブラックウッドの本を何冊か借りて読みました――Tongues of FireとThe Garden of Survivalです。どちらもたいへん気に入ったのですが、さらに良い作品をブラックウッドなら書いているのではないかと思います。 The Garden of Survivalは未訳の長編小説。スミスが"Tongues of Fire"と呼んでいるのは短編「炎の舌」ではなく、Tongues of Fire and Other Sketchesという作品集のことだ。1…
クラーク=アシュトン=スミスの"The Dead Will Cuckold You"を日本語に翻訳してみた。 www7a.biglobe.ne.jp これはゾティークを舞台にした戯曲で、執筆中であることをスミスは1951年2月22日付の手紙でダーレスに知らせている。4月15日、完成した作品がダーレスのもとに送られたが、このときスミスは原稿をシングルスペースで清書していたそうだ。出版社に送る清書稿はダブルスペースにするのが慣例なので、スミスは発表できるとは期待していなかったのだろう。 折しもアーカムハウスはThe Dark Chateau and Other Poemsと題するスミスの詩集を刊行…
『最果てのパラディン』2期に『葬送のフリーレン』、『ダンジョン飯』とファンタジーアニメが立て続けに放映され、またゲーム界隈では『バルダーズ・ゲート3』日本語版発売に『ウィザードリィ:狂王の試練場』リメイクと話題沸騰、各SNSではファンタジー談義に花が咲いている今日この頃。俺もいっちょかみして承認欲求満たしてー!とか思ったものの、ツイッターなどはやっていないのでここに書くことにした。 さて、『葬送のフリーレン』にハンバーグ(ゴリラも入るか?)が登場したことが色々と物議を醸していたようだ。ファンタジー異世界にドイツ地名由来の物品が存在することへの違和感ツッコミご意見に対し「あの世界のひき肉焼き料理…
以下の投稿に思い付くまま言葉を並べるうちに気づきました。もしかしたらC.Lムーアこそ元祖触手エロ作家で、松本零士こそ元祖触手エロ絵師? Amazon.co.jp: 大宇宙の魔女: ノースウェスト・スミス全短編 (創元SF文庫 ム 1-1) : C・L・ムーア, 中村 融, 市田 泉: Japanese Books 『大宇宙の魔女(ノースウェスト・スミス全短編)』C.L.ムーア/中村融・市田泉 訳/創元SF文庫)アマンゾを見ると発売日が2021/11/11になってます。もう出てますね。訳者の中村氏は大学時代の友人で謹呈本を贈り合う仲なのですが今回も事前にいただきました。大好物なシリーズで感激です…
MTG発売が1993年、日本上陸が1996年か…何もかも懐かしい…
うろ覚えですが、多分 懐かしの大好きなドラマ『インスマスを覆う影』を久しぶりに視聴した後、 この本の存在を知って中古で購入したのではなかったかと。 クトゥルー怪異録 (学研M文庫) 作者:秀行, 菊地,史郎, 佐野,彬光, 高木,純一, 友成,千昭, 小中,正紀, 山田 学研プラス Amazon クトゥルー怪異録―極東邪神ホラー傑作集 (学研ホラーノベルズ) 作者:秀行, 菊地,史郎, 佐野 学研 Amazon www.video.unext.jp インスマスを覆う影 [VHS] パック・イン・ビデオ Amazon ja.wikipedia.org クトゥルフ神話をモチーフとするホラーあるいは…
第五章「物語は「神なるもの」をどう描いて来たか」 ①「SF小説に見る宗教性と反宗教性」 ②「科学合理性の魅惑と限界」 ③「後期クイーン問題と神」 ④「酸鼻と陰惨のゴシック・ホラー」 ⑤「ナルニアへ続く箪笥」 第六章「性と聖」 ①「推し活は「性的消費」なのか」 ②「エロティシズムと聖なるもの」 ③「泣けるゲームやアニメの神聖な構造」 ④「愛という言葉すら忘れ去られて」 ⑤「詩人が見た夢」 ⑥「性と聖を統合し昇華する」 第七章「推し文化のスピリチュアルなかたち」 ①「ふたつの殺人事件」 ②「共食いの匣」 ③「悪の華、咲きそめる」 ④「尊くもグロテスク」 ⑤「その都市の名はオメラス」 ⑥「実存的空虚…
ぼくが好きな暗黒耽美系(?)の愛読書をリストアップしてみました。 中身は雑多としかいいようがなく、読み終えていないものもあるし、ひとによっては「これのどこが耽美だ」と思うものも混ざっていると思う。 何しろCLAMPの『ちょびっツ』が混ざっていたりする。でも、あれはぼくのなかでは「そういう趣味」の漫画なのだ。澁澤龍彦以来の人形愛の伝統がなければ、きっとあの作品も全く同じではなかったはずだ。 森薫の『シャーリー』が入っているのはメイド系の代表として。ちっとも暗黒でも耽美でもないけれど、でもぼくにとってはあれも「ソレ系」に入るんだよなあ。 永野護『ファイブスター物語』を入れているのは、もちろん、あの…
『幻想と怪奇 13 H・P・ラヴクラフトと友人たち』(牧原勝志編 新紀元社 2013/3月刊) http://www.shinkigensha.co.jp/book/978-4-7753-2078-5/ 装画 ひらいたかこ 装丁 YOUCHAN 旧『幻想と怪奇』誌(三崎書房/歳月社1973~74)の全12号をついに超えて13号の刊行成った新編『幻想と怪奇』。今号は満を持しての初特集となるラヴクラフト&アーカム・ハウスをテーマとし かの特殊書肆の意義を実作品群によって掘り下げている点が特筆。ラヴクラフトおよび親しい友人作家たち/歿後HPL書を刊行し作家としても後継したダーレスとワンドレイ/その流…
【本格ファンタジー100選】 自分の頭の中で思い付いた「本格ファンタジー」を100作、何等の整理もせずに掲げています。ただ、「本格ファンタジー」に関する議論はあるものの、自分が考える「本格ファンタジー」の事例を羅列する人は少ないようなので、とりあえず、サンプルとしてやってみたいと思います。 1:泉鏡花『天守物語』 2:倉橋由美子「アポロンの首」 3:山尾悠子『ラピスラズリ』 4:井上雅彦「デザート公」 5:恒川光太郎「夜市」 6:小林泰三『アリス殺し』 7:ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』 8:レオ・ペルッツ『夜毎に石の橋の下で』 9:ロード・ダンセイニ『ペガーナの神々』 10:イタロ・…
「怪奇作家はダンセイニ卿を語る:ラヴクラフト書簡集」 著者:H・P・ラヴクラフト未谷おと編/弾青娥訳発行:西方猫耳教会頁数:141価格:1500円 H・P・ラヴクラフトがダンセイニ卿について言及した書簡を翻訳しました。その他、アルジャーノン・ブラックウッド、マッケン、ポー、俳句などの話題も。宛先はオーガスト・ダーレス、クラーク・アシュトン・スミス、ロバート・E・ハワード、フリッツ・ライバー、ヘンリー・カットナーなど。 2023年5月21日 東京文学フリマ 「ねこ工房」う-26 にて委託販売します。イベント終了後に何らかの形で通信販売を行います。9月の大阪文学フリマにも出店します。 [内容見本]…