風の強い一日だった。 編集部へ原稿を手渡しに出向く。郵送でも事足りる。メール添付のほうが手っとり早い。それどころか製版へはどうせデータ入稿するのだから、こちらもデータ送稿のほうが世話なしだ。解ってる、そんなこと。 だが依頼者への原稿提出というものは、さようなものではない。書き屋にとっての区切り儀式であり、だれの眼にも見えずとも、わが身一個だけのカーテンコールだ。大新聞社や大出版社の編集部へ、新刊書評だの文庫解説だのといった、下請け孫請けがごとき雑稿を手渡すさいでも、かならず原稿をお持ちしたものだった。 その時代でさえ、私はすでに時代遅れだった。アンタは耳に手を当てた鶴田浩二だねと、嗤われたもん…