奢侈と虚栄、情欲とエゴイズムが錯綜するパリ社交界に暮す愛娘二人に全財産を注ぎ込んで、貧乏下宿の屋根裏部屋で窮死するゴリオ爺さん。その孤独な死を看取ったラスティニャックは、出世欲に駆られて、社交界に足を踏み入れたばかりの青年だった。破滅に向う激情を克明に追った本書は、作家の野心とエネルギーが頂点に達した時期に成り、小説群“人間喜劇”の要となる作品である。
ゴリオ爺さん (新潮文庫)
『ペール・ゴリオ パリ物語 バルザック「人間喜劇」セレクション (第1巻)』バルザック著 鹿島茂訳を読む。 なぜ、日本ではバルザックがポピュラリティーを得なかったのか。極論すれば、日本が物質的に貧しかったからだ。食べることに汲々としていては、やはり贅沢は敵であり、富は悪、金は下賎なものだった。ゆえに、戦前は、銀行員は上等な職業ではなかったことを山本夏彦のエッセイで読んでいたことを、ふと、思い出した。ちなみに、ぼくの母方の祖父は銀行員だったが。 ところが、悪名高きバブル時代を体験して日本人は、ようやくバルザックの描いた世界-たとえば蒐集家のごとき道楽者、あるいは遺産相続をめぐる親近者による骨肉の…
1.経緯 トマピケを読んでいた際、「ラスティニャックのジレンマ」や「ヴォ―トランのお説教」が出てきた。この元ネタは、バルザックのゴリオ爺さんであるということなので、その流れで拝読。最初に読んだのは、社会人1年目の冬ころ。 21世紀の資本 作者:トマ・ピケティ みすず書房 Amazon ゴリオ爺さん(新潮文庫) 作者:バルザック 新潮社 Amazon 2.内容 南仏出身の青年がパリでの立身出世を目指すものの、その手段をめぐり、右往左往しながら、葛藤の末、ピカレスク的な生き方を選ぶという話。 3.名フレーズ ただ彼女は、身近の人間はやたらと疑う癖に、どこの誰ともわからない相手には気を許す多くの人た…
以前記事にした「筑摩世界文学大系19 ゲーテI」と同じ全集に属する第23巻、やはり昭和35(1960)年の発行である。 バルザックの作品で読んだとはっきり記憶しているのは「ゴリオ爺さん」くらいで、個人的にはあまり馴染みの深い作家ではないが、この一作を読んだだけでも、その怒涛の如き文体は強烈に印象付けられた。 ドストエフスキーに通じる、「言葉の洪水」とも言える文章は、その流れに上手く乗ることができれば一気に読み進められる反面、それに逆らおうとすると忽ち激流に翻弄され、溺れる危険を孕んでおり、ちょうど、「音の洪水」と形容されるジョン・コルトレーンの演奏が連想される。 本巻に収録されているのは、長編…
四つ目の読書体験は、一九七七年に始まる。文化大革命が終結し、毒草と見なされた禁書が改めて出版された。トルストイ、バルザック、ディケンズらの文学作品が最初に我々の町の書店に並んだときの反響は、現在で言えばスター歌手が田舎町に登場したようなものだった。人々は走り回って情報を伝え合い、首を長くして到着を待った。我々の町に届く図書の数量には限りがあるので、書店は告示を出した。行列して整理券を受け取ること、整理券は一人一枚、一枚で二冊まで購入可能。 私は図書購入の壮観さをいまだに覚えている。夜明け前、書店の門の外にはもう二百人あまりの長い行列ができていた。一部の人は整理券を手に入れるために、前日の夜から…
私はバルザックの小説をよく読みます。ライフワークのように、「人間喜劇」の作品を一つずつ読んでいるのです。バルザックの小説世界の面白さとは何だろうか、と考えてみたら、その一つは多分、フランス19世紀の社会に存在していた「職業」を描き出していることだろう、と思い至りました。 ゴリオ爺さんは製麺業者、トルーベール師は司祭、ニュシンゲンは銀行家、ゴプセックは高利貸し、シャベール大佐は軍人、といった具合に、登場人物は常にその職業とともに読者に認知されます。その職業に就くからには職業病のような癖を持っているでしょうし、その適性が備わってもいるでしょう。つまり、職業とその職務が社会との接点になっているからこ…
21世紀の資本作者:トマ・ピケティみすず書房Amazon ずっと積ん読になっていたピケティの『21世紀の資本』を昨年末から読み始めて、数日前にやっと読み終わった。ああ長かった。あと、縦書き読みにくい。数字がたくさん出てくる本は基本、横書きにしてほしいと思う。簡単な数式も序盤の方で少し出てくるけど、数式を縦書きってのはちょっとキツいです。 概要は解説本がたくさん出ているようなのでそういうのを読めばいいんじゃないかなあ(私は読んでないです)。あと、訳者の人がわかりやすい解説を書いてくれているので、これを読めば十分という気もする。 cruel.hatenablog.com で、私は経済は素人なので、…
こんばんは、茅野です。 今後どんどん冷え込むそうなので、お身体にお気を付け下さい。 最近は「ジェラール・フィリップ映画祭」に通っているのですが、今回は別の映画祭に潜入。「ジャン・コクトー映画祭」です。20世紀中頃のフランス映画、流行っているのか……? ↑ 「・」が二つあるのが気になる……。何故映画やライブビューイングの公式サイトやパンフレットはこんなに誤植があるんだ……。 上映されている四作品の中から、『オルフェ』と『美女と野獣』を続けて観て参りました。 恵比寿ガーデンシネマ、初めて伺ったのですが、建物も内装も美しいし、カフェやお手洗いも綺麗だし、座席がふかふかで頭部までクッションがあり、凄く…
ストーリーよりキャラがすごい バルザックの短篇「ゴプセック」(『ゴプセック・毬打つ猫の店』(芳川泰久訳、岩波文庫、2009年)所収)を読みました。 本作は1830年に他の短篇とともに刊行された、「人間喜劇」の「私生活情景」に含まれている作品です。もともとは「身の過ちの危険」というタイトルでしたが、その後「パパ・ゴプセック」に変わり、最終的に「ゴプセック」になったとのことです。 本書のストーリーをかいつまむと、代訴人のデルヴィルが、グランリュウ子爵夫人の娘カミーユが恋をしているレストー伯爵の財産について、子爵夫人に物語る、という内容です。レストー家の財産の物語とは、かつてデルヴィル自身と高利貸の…
サルトルの『嘔吐』は図書館が舞台だ。 すべては「私」の日記という体裁である。 地方の図書館で文献調査を続ける「私」=ロカンタンの前に一人の奇妙な男が現れる。図書館に通う熱心な読書家である。ロカンタンは彼を「独学者」と名付ける。「独学者」はロカンタンの傍らで、次々に本を借り出して読んでいく。見れば、まったく関連性のない雑多な読書を行っているのだ。いったい何のために。 それがある日、急に思い至るのだ。《不意に彼が最近に参照した本の著者名が頭に浮かんだ。ランベール、ラングロワ、ラルバレトリエ、ラステックス、ラヴェルニュ。それは閃きだった。独学者の方法が分かった。彼はアルファベット順に知識を身につけて…
2022年総集編。 ノルウェー・ブック・クラブが選出した「世界最高の文学100冊」(原題:Bokkulubben World Library)というものがあることを知り、全作読んでみることにした。 Library of World Literature » Bokklubben 目標は2030年までに全作読破。英語原著はできるだけ原文で読みたいけれど英語以外でも可。ルールはこれだけ。さらにせっかく読むのだから、読む前と読んだあとで自分の思考がどう変わったかをメモしておくと最高。 以下、選出された100タイトル。「ドン・キホーテ」が最高傑作であることを除けばとくに順番は定めていないらしいので、ウ…
Photo by Nong V on Unsplash 2022年のまとめとして今回は「今年面白かった本」を挙げて行こうかと思います。オレは本を読むのが遅いんですが、紙の本とKindle本をうまくスイッチさせながら週1冊ぐらいのペースで読んでいました。だから数えてないけど50冊くらいは読んだのかな?まあ例によってだいたいSFばっかりなんですけどね! なにしろフランス文学をたくさん読んだ とはいえ、今年「本」といえば、なにしろフランス文学を集中的に読んだ年でした。全部で20作は読んだでしょうか。実はずっと「フランス人って何考えてるんだろう?」って思っていて、それを文学から導き出そうと思ったんです…
バルザック『グランド・ブルテーシュ奇譚』(宮下志朗訳、光文社古典新訳文庫、2009年)の訳者による解説は、冒頭から次のように書かれています。 《人間喜劇》と題された壮大な物語群を生み出した文豪バルザックといえば、だれでも『ゴリオ爺さん』『幻滅』『谷間の百合』といった長編小説を連想するにちがいない。当然の話だ。それらの小説(ロマン)は、数千人もの登場人物が織りなすこの《人間喜劇》という巨大な壁画の中央を占め、あるいは骨格を形成しているのだから。だが、少し待ってほしい。全部で九〇編からなるという(数え方は、学者によって異なるらしい)、この「社会の絵巻(タブロー)」(「人間喜劇総序」)は、長編だけで…
3/10&12 映画音楽の作曲家ドルリューの命日と誕生日に合わせ、昨年投稿したものをピックアップしました。 ********************************** ジョルジュ・ドルリュー(Georges Delerue, 1925.3.12 – 1992.3.10)は、フランスの作曲家で、主にF.トリュフォー(1932-1984)の主要な映画の音楽を担当した。 パリ音楽院でアンリ・ビュッセルらに師事し1949年音楽院卒、ローマ大賞で第2等に選ばれている。作曲した映画数は250本を超えるという。 1959年にアラン・レネの映画『二十四時間の情事』で初めて映画音楽の作曲をし、F.トリ…
『ラブイユーズ』オノレ・ド・バルザック 國分俊宏/訳 ★ 光文社[光文社古典新訳文庫] 2022.12.3読了 バルザック著『ゴリオ爺さん』を15年ほど前に読んだ時、実は最後まで読み通せなかった。おもしろさを感じられなかったからなのか、当時はまだ翻訳ものを上手く読みこなせなかったからなのか不明だ。だからバルザックについては苦手意識があった。敬愛するサマセット・モームが天才だと認めたバルザックを私は理解できないのかと、少し残念な気分を常に持っていた。 時はフランス革命直後、ナポレオン帝政から復古王政に至る時代である。この頃のフランスは動きがあってやはりおもしろい。タイトルの『ラブイユーズ』という…
世の中欲しいものは全部、お金で買えます 人の心や、愛はお金では買えない!これはもう古いです 悲しいのは、お金で心も体も平気で売る人が増えてしまったこと!! パパ活、麻薬取引の受け子、高齢者に息子を装った詐欺の電話 挙句の果てには「トー横キッズ」なんて言葉まで登場しました これらは全てお金が絡んでいます なんでもお金です、田舎の方にいけば農作や近所づきあいなど優先されることもありますが、特に東京や大阪は、とにかくお金です 円安円高もお金、ビットコインもお金、GOTOトラベルも宿泊費もお金お金お金 なんでこんなにお金ばっかなのか!?それは・・・ カイジに登場する利根川が言うように、金は命より重いか…
昔の名作です。 ゲーテの「若きウェルテルの悩み」以降の昔の名作。 「モンテ・クリスト伯」は残念ながら挫折しました。 何かね。途中で飽きてしまって。 復讐のやり方がイマイチね。ピンと来なくて。 復讐すべき人が死んじゃったりしてたりもして。 どちらかといえば、恩人への恩返しもしているんですが、 そっちの方がほっこりして好きだったりしましたね。 まあ、そんなこんなでバルザックって人の「ゴリオ爺さん」 1830年代くらいのパリの社交界がメインの舞台でした。 社交界に足を踏み入れたゴリオ爺さんの娘2人。 自業自得も含め、散々な目にあい、金が必要で、ゴリオ爺さんに金を無心し続けます。 ゴリオ爺さんと同じ下…
I found a book that I want to read. 四畳半タイムマシンブルース (角川文庫) 文庫2022/6/10森見 登美彦 (著)上田 誠 (企画・原案) 本と作家のリスト アーサー王ここに眠る (創元推理文庫 F リ 4-1) 文庫 – 2021/8/12 フィリップ・リーヴ (著), 井辻 朱美 (翻訳) アーサー王の死 (ちくま文庫―中世文学集) 文庫 – 1986/9/1 トマス・マロリー (著), William Caxton (著), ウィリアム・キャクストン (著), 厨川 圭子 (著), 厨川 文夫 (著) 四畳半神話大系 (角川文庫) 文庫 – 20…