バスの車内は酷く混雑していた。 私はドカドカと車内に乗り込み、慌てて傘を畳むと、優先席の上部にさがる吊り革につかまった。 私の前には、二人の小柄なおばあちゃまが横並びに座っていた。 その二人は知り合いなのか…いや会話をしているからと言っても知り合いなのかは分からないものだ。 ただ二人は、親しそうに話をしていた。 右側に座っているおばあちゃまは、左手の薬指にサファイアの指環をしていた。そのサファイアには、ダイヤモンドが並ぶ一文字リングを重ねていた。 私は少し、この年代の女性が濃紺のサファイアの指環を好むのは意外だなと感じた。 長いこと宝石を売る、ある宝石店のお爺さんは、サファイアは地味だから人気…