オープニングとクロージングに挿入された皺だらけの瞼と開いた目が交互するクローズアップのショットは、脚本には書かれていない(新訳ベケット戯曲全集3/白水社/2020年発行)。脚本と映画作品の内容の食い違いは上記のショットのみならず、いくつかの相違点を確認することができる。例えば、街路で主人公がぶつかる年配の夫婦のシーンだと、脚本では女性はペットの猿を抱えていることが記述されているが、映画では猿は登場していない。部屋の場面では、主人公が左手で右手の脈をはかる動作が2回ほど出てくるのだが、脚本にはない。また、犬と猫を追い出すシーンや写真を見るシーンには手順や時間の描写にかなりの相違が見られる。壁に釘…