終電を逃した。 橋本は息を吐いて、川に架かる古い橋を渡り始めた。タクシーを拾うには遠回りだが、この橋を渡れば自宅まで徒歩二十分で着く。 深夜の橋には街灯がまばらで、欄干の影が長く伸びている。川面からは冷たい風が吹き上げてきた。 ふと、欄干に寄りかかる女の姿が見えた。 黒いコートを着て、長い髪を垂らしている。橋本は少し足を緩めた。こんな時間に女性が一人でいるのは物騒だ。 「大丈夫ですか」 声をかけると、女はゆっくりと顔を上げた。 青白い顔だった。目の下に濃い隈があり、唇は血の気が失せている。 「ああ、はい。ちょっと気分が悪くて」 女は力なく笑った。橋本は少しほっとした。酔っているのかもしれない。…