はじめに 最近、速水融『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』(藤原書店、2006)を読み返した。第一次世界大戦末期の1918年から終戦直後の1920年まで世界的に流行した、「スペイン風邪」ともいわれたインフルエンザの、日本での状況について述べた本である。このテーマの、数少ない本格的な研究のひとつだ。著者の速水融(1929~2019)さんは、歴史人口学の大家で、新型コロナの世界的流行が始まる直前の2019年12月に91才で亡くなった。スペイン・インフルエンザは、1918年春から1920年まで世界で猛威を振るった。史上最悪のパンデミックのひとつである。これによって全世界で5000万~8000万人…