ボオドレエルの観察や所感、箴言の覚書き。『惡の華』を上梓した頃から、詩人が失語症になる直前迄に書かれた。母に宛てた書簡を見ると、ルソーの『告白録』に倣ひ、出版を意図して書留めてゐた事が分る。 世間が崇拝してゐるものに対して、僕が自分をさながら縁なき衆生と感じてゐるといふことを、たへず感じさせたいのです。(母に対する書簡) この書物は、ボオドレエルの二面性を理解するのに役立つ。即ち、ボオドレエルは周知の通り諷刺家、悲観論者、ダンディである一方、彼は同時に熱情家、純然たるカトリシスムの信仰者であるといふ事を。 これら相反する二つの性格が一つの人格に同居してゐる事を、人は訝るかもしれぬ。 だが私は思…