テイラー展開

テイラー展開

(サイエンス)
ていらーてんかい

任意の関数を

  1. ある点の近くで、多項式近似すること。
  2. または区間全体で、多項式の無限和として表すこと。

高校物理では (1+x)^\alpha=1+\alpha{x}(|x|{\ll}1) なる公式に相当するが、これは1.の多項式近似である。

以下は長い解説。

動機

sin(0.1) はどの位の値だろうか?

sin(0) が 0 なので、sin(0.1) は大体 0 だ。でも、sin(x)は x が π の倍数でなければ 0 ではない。よって、sin(0.1) は 0 ではないが 0 に近い数だ。
では、sin(x) のグラフに x = 0 で接線を引いてみよう。接線という位なので、x = 0 の近くでは、相当 sin(x) に近いはずだ。ここで、sin(x) の微分は cos(x) なので、求める接線の傾きは cos(0) = 1 だ。更に、点(0,0)を通るので、接線の方程式は
y = f(x) = x
だ。よって、sin(0.1) の値は、f(0.1) = 0.1に近いはずだ。実際に、Mapleなどで計算してみると、
sin(0.1) = 0.099833541665...
であり、f(0.1)=0.1はsin(0.1)のかなり良い近似となっている。


もっと、精密に近似してみよう。接線による値と実際の値の差はg(x)=sin(x)-f(x)に現れるはずだ。よって、この関数の値がより解れば更によい近似がえられるはずだ。仮に、sin(x) を x = 0 で接線で近似したときと同じアイデアを使い、関数 g(x) を x = 0 における接線で近似してみるとすると。g(x) の微分は cos(x) - 1 で、g'(0) = 0 であるので、g(x) の x = 0 における接線は y = 0 という定数関数である。0 の 0.1 における値は当然 0 なので、すでに求めた 0.1 という近似値に何も変化をもたらさない。

今度は g(x) を2次関数で近似してみよう。すなわち、g(x) が単なる x のような直線ではなく、ax2 に大体等しいと仮定し、a を決めるのである。すると g(x) の2回微分は -sin(x) であり、ax2 の2回微分は 2a である。ここで、仮定により -sin(0) = 0 が大体2aと等しいので a = 0 であり、一つ上の段落と同じく sin(0.1) の近似に新たに情報をもたらさない。

では g(x) を3次関数で近似してみると。すなわち、g(x) が x = 0 の近くで大体 ax3 に等しいと仮定するのである。すると、g(x) の3回微分は -cos(x) で、ax3 の3回微分は 6a であるので、-cos(0) = -1 が 6a と大体等しく a = -\frac16 と出る。ここにおいて、g(x)は x = 0 の近くで -\frac16 x^{3} に近いと出たのである。


以上をまとめると、sin(x) が x = 0 の近くで x-\frac{x^3}6 に大体等しいと解る。実際に、
0.1-\frac{(0.1)^3}6 = 0.099833333333...
を得て、実際の値に非常に近くなる (sin(x)のテイラー展開に 0.1 を放り込むと交代級数が得られるので、交代級数の誤差定理を使えば誤差の評価も暗算で出来る)。

このように、sin(0.1) のような値を得る際に、接線(1次関数)、2次関数、3次関数…で近似していくと、与えられた関数の非常に良い近似値が得られる場合が多い。以上が、テイラー展開の動機である。

定義

関数を与えられた点の近傍で級数として表す方法で、多くの場合に与えられた関数の近似値を得る方法として非常に有効だ。更に原始関数や微分が複雑になる関数に対する積分や微分の近似値を得る方法としても使える。任意の点でテイラー展開可能な関数は、解析的関数と呼ばれる。


特に原点で展開するとマクローリン展開と呼ばれる。負ベキの級数も含める展開をゆるすとローラン展開を得る。(0!=1とおいて)関数fのaを中心としたテイラー展開は式で以下の通り。
\sum_{n=0}^{\infty}\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^{n}

テイラーの定理

T_{n}(x)=\sum_{k=0}^{n}\frac{f^{n}(a)}{n!}(x-a)^{n}をn次テイラー展開とし、R_{n}(x)=f(x)-T_{n}(x)をn次余剰項とすると、|R_{n}(x)|\to 0がある定数Rに対する|x-a|<Rを満たす任意のxに対してなりたてば、
f(x)=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^{n}
が|x-a|<Rに対して成り立つ。


なお逆に、
f(x)=\sum_{n=0}^{\infty}c_{n}(x-a)^{n}
|x-a|<Rに対して成り立っていれば、微分の繰り返しで
c_{n}=\frac{f^{(n)}(a)}{n!}
が直ちに従う。

テイラーの不等式

R_{n}(x)の評価には、以下のテイラーの不等式が便利だ。|f^{n+1}(x)|\leq Mが|x-a|<Rに対して成り立つとすると、
|R_{n}(x)|\leq \frac{M}{(n+1)!}x^{n+1}
が|x-a|<Rに対して成り立つ。

積分や微分操作との可換性

|x-a|<Rの範囲で、上記の無限和が積分記号や微分記号と可換である。よって|x-a|<Rとある定数Cに対して以下が成り立つ。
\int f(x) dx=\int\sum_{n=0}^{\infty}\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^{n}dx
=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{f^{(n)}(a)}{n!}\int (x-a)^{n} dx
=C+\sum_{n=0}^{\infty}\frac{f^{(n)}(a)}{(n+1)!}(x-a)^{n+1}
\frac{d}{dx}f(x)=\frac{d}{dx}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^{n}
=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{f^{(n)}(a)}{n!}\frac{d}{dx}(x-a)^{n}
=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{f^{(n)}(a)}{(n-1)!}(x-a)^{n-1}

具体例

ex

f(x)=e^{x} とすると f^{n}(x)=e^{x} が全ての自然数 n に対して成り立つ。また、|f^{n+1}(x)|e^{R}が |x| ≦ R である x に対して成り立つ。
更に公式\lim_{n\to\infty}\frac{x^{n}}{n!}=0を利用すると、|R_{n}(x)|\to 0が|x|≦Rに対して成り立つ。ここで、どんなに大きなxに対しても適当な大きさのRを取れば、上記の議論は成り立つので、結局n次余剰項はどのxに対しても0に収束する。よって
e^{x}=1+\frac{x}{1!}+\frac{x^{2}}{2!}+\frac{x^{3}}{3!}+...
が任意のxに対して成り立つ。

sin(x)

f(x)=sin(x)とすると、\frac{d}{dx}sin(x)=cos(x)\frac{d}{dx}cos(x)=-sin(x)を利用し、f^{n}(x)が解り。更に、明らかに|f^{n+1}(x)|\leq 1が成り立つので、n次余剰項の評価も簡単に0に収束する。よって、
sin(x)=x-\frac{x^{3}}{3!}+\frac{x^{5}}{5!}-\frac{x^{7}}{7!}+...*1
が任意のxに対して成り立つ。

cos(x)

sin(x)の時と同様の議論で、
cos(x)=1-\frac{x^{2}}{2!}+\frac{x^{4}}{4!}-\frac{x^{6}}{6!}+...
が任意のxに対して成り立つ。

三角関数の公式とオイラーの公式等

逆に、sin(x)cos(x)を上記のテイラー展開で定義すると、それぞれの関数を複素数上の関数に拡張できる。また、すでに利用したそれぞれの関数の微分の関係も明らかに成り立ち、2sin(x)cos(y)=sin(x-y)+sin(x+y), 2 sin(x)sin(y)=cos(x-y)-cos(x+y),2 cos(x)cos(y)=cos(x-y)+cos(x+y)などの三角関数の公式も導かれる。更に、複素数iを使うといわゆるオイラーの等式を導くオイラーの公式e^{ix}=cos(x)+isin(x)が得られる。

tan^{-1}(x)

\frac{d}{dx}tan^{-1}(x)=\frac{1}{1+x^{2}}\frac{1}{1+x^{2}}=\sum_{n=0}^{\infty}(-x^{2})^{n}(|x|<1)利用すると、
tan^{-1}(x)=x-\frac{x^{3}}{3}+\frac{x^{5}}{5}-\frac{x^{7}}{7}+...
が|x|≦1で成立する(端点に関しては交代級数の収束定理を使う)。特に\pi/4=tan^{-1}(1)であるから、πの一つの近似式
\frac{\pi}{4}=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+...
が得られる。

発展

与えられた関数を、より解りやすい関数の和で書くというアイデアは、調和解析の主題だ。他に、代数幾何での応用を見ると複素数体あるいは実数体上の非特異的代数多様体上のある点の近傍上の正則関数は常に(形式的)テイラー展開が可能であり、その事実と陰関数定理を利用すると、代数多様体に自然な(幾何学で言う)多様体構造が入る事が解る。


*リスト:リスト::数学関連

*1:右上の画像は、sin(x)そのものと、sin(x)のテイラー展開でえられる近似式x, x-x^{3}/3!, x-x^{3}/3!+x^{5}/5!x-x^{3}/3!+x^{5}/5!-x^{7}/7!, x-x^{3}/3!+x^{5}/5!-x^{7}/7!+x^{9}/9!等を表示している。詳しくはhttp://d.hatena.ne.jp/winoue/20040427を参照

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