何気なく聴いた音楽が、思いがけず心に沁みることがある。 とあるコンピレーションアルバムの中の一曲。音楽を流しながら拡げた雑誌に目を落としつつも、文字を追っていたわけではなく、考え事をしていた。そんな中でこの曲に意識が行ったのは、バッハの無伴奏を思わせるような、開放弦の響きが印象的なチェロの前奏に、ふと耳が留まったからだろうか。 ゆったりとテンポをとるピアノとドラムス、ベースが続き、やがて少しかすれた男性ボーカルが重なる。決して流暢ではないけれど味のあるその声は、思い切りやさしい。心惹かれるシンプルで穏やかなメロディーは、初めて聞いたはずなのにどこか懐かしくさえある。どうしようもない堂々巡りの思…