僕は古いプジョーのロードバイクを砂浜の上の高台に横たえた。ここがオマハビーチか、と遠くを見た。穏やかな海。ドーバー海峡の向こうに、イギリス本土はもちろん見えなかった。 そう、あれは去年だな。ビーチとは関係のない、僕の住む高原の話だ。ある日目が覚めると驚いた。昨夜までは冬の名残がある庭だった。植えた草木と庭木が寒々としていたのだった。しかしその朝、庭は急に緑のじゅうたんになっていた。なんだか嘘のような一夜だった。 1944年6月6日。浜辺のトーチカの兵士は驚いたことだろう。早朝のドーバー海峡を埋め尽くす艦船、そしてそこから吐き出されてくる上陸用舟艇の群れに。兵士は手元のMG42の撃鉄を引いたこと…