ノンセクト

私たちが構築してきた「一文アーカイブ」（川口大三郎の死と早稲田大学）に一人の教員の書いたものがある。川口君の死から三週間後である。 当時、私たち中国語クラスは2Jと２Tだけだった。教員は、芦田、長谷川、松浦、杉本の四人が語学を教えていた。杉本達夫先生は1971年に文学部に専任講師として赴任、1975年に助教授になっている。 なりたての専任講師として最も学生に年齢が近く、交流も深かった。 この文章を読むと、当時の教員達の右往左往の様子がよく分かる。良い意味でも悪い意味でも、先生方は誠意をもって事に当たっていた。ロックアウト時の正門前で、高名な歴史家の先生に、革マル派と間違われて私も怒鳴られた事が…

映画パンフは、初版はモノクロで非売品だった。それが5月にカラー版になって内容も増補されて市販されるものになった。そのどちらにしても、採録シナリオは同じである。 劇のリンチの場面があるのだが、それは樋田君が革マル派のSに取材した内容をもとにしている。Sは樋田君の取材を受けたが、最終的に活字になるのを拒否した。だから『彼は早稲田で死んだ』には何も出ていない。ところが、それを樋田君は代島監督に開示し、それをもとにして鴻上尚史氏が劇を作っている。そこの倫理問題があるが、今はそれは問わないでおく。 重要な事は、劇の中のセリフにこれまで知られていなかった情報がある事である。リンチの際に執拗に革マル派が問う…

このドキュメンタリー映画に私は出ている。出演者名簿の二行目の真ん中に私の名前が掲載されている。映画をご覧になった方も多いだろう。なぜ出ているかと言うと、早稲田の学生であった私は、JR相模原駅前のアパートに下宿していたからだ。通学に片道3時間ほどかかった。兄が近くの麻布獣医大学（当時）の学生だったので、親の負担を軽減するために同居したのだ。その時間ロスと疲労と友人らとの交流の機会喪失を考えれば、バイトして早稲田に住んだ方が合理的であるのは後で分かった。 ともあれ、戦車闘争の際は、私は毎晩のように出かけて市民として座り込んだものだ。下駄を履いて浴衣を羽織って、手には団扇を持って出かけた。ビールを飲…

「そういえば 『蒲田行進曲』で 「民青か！革マルか！」「ブントか！中核か！社青同か！」ってセリフがあったのだけど ちょっと意味が分かってなかったんだよね それがどういう意味かやっと理解出来た そしたら背筋がとても冷たくなったよね」 早速見に行かれたそうだ。女優さんのようだが、この感想がとてもいい。当時の「一般学生」もまさにこんな雰囲気だった。 政治というけれど、「無関心、ノンポリ、ノンセクト、党派」の境界は曖昧だった。個人の内面においてもそれは季節のような単なる流動性に過ぎなかった。仮に文献などを学習して「党派」に近寄ったとしても、デモや集会の一つにでも出かけたとしても、それが生存の全てではな…