ハンス・カロッサという在り方 1. 中学、高校の頃、行きつけの本屋には当時にしてすでに随分と昔の出版物である『世界の詩集』がそろっていた。そこで買った何冊かがぼくの詩の原体験である。ランボー、ボードレール、八木重吉、清岡卓行、ヘッセ、ネルーダ、ロルカ・・・・・・ そしてカロッサ詩集。 2. ぼくは『古い泉』をこよなく愛した。それは戦後の西ドイツ国内のアンケートで、近代ドイツ文学の叙情詩のベスト1になったという。ヘッセの『霧の中』とリルケの『秋日』などかつての文学青年なら誰でも知っている二作品を抑えて、町医者の彼の詩が選ばれたのだった。 彼の小説は自らの生活記録を語る類のものだ。例えば第一次大戦…