「ねえ、聞いてる?」 ミナミの声は、冷蔵庫のモーター音よりも冷たく、リビングの空気を凍らせた。 僕は視線をPCの画面から外し、振り返る。そこには、腕組みをして仁王立ちするミナミと、その後ろに積み上げられた二つの段ボール箱があった。 「……ごめん、なんだっけ」 「だから、来月末にはここ引き払うから。カイトも次の物件、早く探しなよ」 決定事項だった。相談ではない。通告だ。 僕たちは大学時代から3年付き合い、卒業と同時に同棲を始めた。あの頃は、狭い1LDKが世界の全てで、愛さえあれば何とかなると思っていた。 だが、現実は甘くない。 ミナミは激務の中で着実にキャリアを積み、僕は「いい案件が来ない」と言…