3 家族の安否を心配する必要がなくなれば研究にも身が一段と入る。その中で、浅井が最も注目したのが、ゲルマニウムである。研究所開設当時に、ある所員が石炭の中にゲルマニウムという希元素があると話していたことがあり、ずっと頭に残っていた。 浅井は占領軍と旅券の件で掛け合った縁で、一時は科学資源局の通訳として徴用されていたが、ドイツから没収した科学文書に、ゲルマニウムという希元素のことが記されていて、未来を支配する元素になると書いてあったと、アメリカ士官が話していたのを小耳に挟んだことがあった。 没収文書にゲルマニウムのことが本当に書かれていたかどうか、確かめることはできないが、物事に興味を抱くのは何…