無性に神田に行きたくなった。 一枚の写真が契機(きっかけ)である。 これが即ちその「一枚」だ。 いちばん手前の屋号に注目して欲しい。 右から左へ、流れるような草書の文字は、「大雲堂書店」と読める。 ある種のビブリオマニアなら、この時点でもうピンと来るに違いない。この看板を掲げた店は、令和五年現在も絶賛営業中ゆえに。 そう、この写真は今からおよそ一世紀前、「昭和」の御代が明け初めて未だ間もない時分の折の神保町を撮影したものなのだ。 否でも応でも胸が高鳴る血が騒ぐ。 そういうわけで行ってきた。 これが最近の大雲堂。 筆者が『生田春月全集』と運命的な邂逅を遂げ、古書の世界にますます深入りしていったの…