フランスの作家ミシェル・ウエルベック(1958年生)の小説『素粒子』(1998年、野崎歓訳、ちくま文庫<2006年>)は、異なった環境で互いに面識もなく育った異父兄弟を中心にした物語。恋愛や性の面で<闘争領域>が拡大し、それによって、結果的に恋愛や性からはじきだされてしまった人間の行動を冷徹に描き、それに生物としての人類の未来をからめている。 『素粒子』 この作品、主役となる兄弟それぞれに関して家系や幼年期の生活についての説明はあるが、言ってみればそれは端的な<説明>であって、普通の意味での性格描写からはほど遠い。というか、ウエルベックは、物語である以上登場人物の生い立ちについての最低限の説明…