今から20年前。の段階でイーストウッドはすでに老いている。老いてはいるが、枯れてはおらず(今もだけれど)、往年の元FBI捜査官が猟奇殺人犯に挑むさまは、実にスリリングでサスペンスフル。気骨のある老人がもう一度立ち上がる「お決まりのパターン」はこの頃にはもう完成されている。そして、オープニングとエンディングのジャズ。これぞ、イーストウッド節なのだ。 【ワーナー公式】映画(ブルーレイ,DVD & 4K UHD/デジタル配信)|ブラッド・ワーク
クリント・イーストウッド監督の「ブラッド・ワーク」を見た。 ブラッド・ワーク (字幕版) クリント・イーストウッド Amazon 2002年の作品である。心臓移植を受けた元FBI捜査官が強盗事件の犯人探しをするうちに、実は事件は自分の心臓移植が関係していることに気づき・・・というなかなか面白そうな筋書きなのだが、作品自体は少し平板に話が進み、メリハリがあまりなく、まあまあというところか。 クリント・イーストウッド監督といえば、「ミスティック・リバー」「ミリオン・ダラー・ベイビー」「グラン・トリノ」「インビクタス/負けざる者たち」など、緊張感が高く、メリハリの効いた作品を作る印象がある。映像は独…
『イカとクジラ』(2005年・アメリカ) ***** 原題:The Squid and the Whale 監督:ノア・バームバック 出演:ジェフ・ダニエルズ ローラ・リニー ジェシー・アイゼンバーグ オーウェン・クライン ウィリアム・ボールドウィン アンナ・パキン ヘイリー・ファイファー ケン・レオン ほか 上映時間:1時間21分 【あらすじ】 1986年、ブルックリン。16歳の兄ウォルトと12歳の弟フランクは、共に作家の両親と一緒に暮らしている。かつて脚光を浴びた父バーナードは長らくスランプが続き、一方の母ジョーンは新進作家として"ニューヨーカー誌"での華々しいデビューを控えていた。そんな…
L.A.コンフィデンシャル [DVD]ラッセル・クロウAmazon 監督のカーティス・ハンソンは数年前に亡くなられたようだけれども、この1990年代に彼は絶好調で、中でもこの『L.A.コンフィデンシャル』は、彼の最高傑作だろうと思う。 原作はベストセラーになったジェイムズ・エルロイの四部作の一篇で、カーティス・ハンソンとブライアン・ヘルゲランドとで脚本を書いている。このブライアン・ヘルゲランドという人は、のちにクリント・イーストウッドの『ブラッド・ワーク』と『ミスティック・リバー』の脚本を手がけた人。 なお、このジェイムズ・エルロイの四部作からは、ブライアン・デ・パルマの『ブラック・ダリア』も…
論説「映画痴人 蓮實重彦」 A 表層批評の紋切り型 蓮實重彦の表層批評はコンテクストがあってこそできる放言にすぎない。文芸批評における『夏目漱石論』(講談社文芸文庫、二〇一二年)ならば作家の伝記的事実に基づいた解釈を否定し例えばあえて「横臥」に着目したり、『大江健三郎論』(青土社、一九八〇年)においては政治性や寓意を無視して「数字[一]」にのみ触れる遊戯、曲芸だ。それは映画についても同じことで、ジョン・フォードの映画といえば『真珠湾攻撃』December 7th(一九四三年)、『ベトナム、ベトナム』Vietnam! Vietnam!(一九七一年)といった作品を完全に黙殺して恣意的に選んだ商業的…
映画評『クワイエットプレイス2』(2021) はっきり言って物語の整合性でいえばすべてが破綻している。登場人物が行動へと思い立つ理由さえまともに描かれないのだ。 いわゆる一般的なドラマ作りだと怪物が巣食うあたりを彷徨く少女を追いかけろと言われたらば、それに対して酷く長く冗漫な段取り芝居を演じてから銃を構えて出発するところをきっちりと撮るだろう。その行動のきっかけをいつの間にか省略していきなり娘の絶体絶命の瞬間に駆けつけるというご都合主義きわまりない登場によって見事に結局どういう心の動きがあって来たのかは映像によって長々と説明されるのではなく、観客が後から推測するように委ねられている。むろんこの…