マルセル・プルースト(1871-1922) フランスの作家。二十世紀を代表する文学者の一人。 主著である大作『失われた時を求めて』は生前に4巻まで刊行された。死後、残された未定稿を遺族が整理して、5年後に全7巻で完結したものの、作者による修正作業は5巻の半ばまでしか行われていないため完成とはいいがたい。
本書「謎とき」の前半と後半で論じられている二点に絞って、感想を述べたい。本書の後半で著者は、主人公と母親がヴェネチア滞在中に訪れる洗礼堂の場面(第6篇「逃げ去る女」)に注目する。このサン=マルコ寺院では、母親は聖母のイコンとして描かれ、母の聖別式も行われたと著者は主張する。また、聖別された母親のモデルを実際に当地に出向いて探した著者は、それを洗礼堂内で突き止め特定することができたと主張する。 しかし、先を急がずに、まずは母と息子のヴェネチア滞在の場面の最後の文を引用しよう。 いまその洗礼堂とモザイクを思い浮かべると、ひんやりとした薄明かりに包まれて私のかたわらにひとりの婦人がいたことを無視する…
「失われた時を求めて」の第1篇「スワン家のほうへ」を読む愉しみはどこにあるのだろうか。第一部の田舎町コンブレや第三部のパリの平凡とも見える日常の描写にも魅力は潜んでいる。その生活描写には実は主人公を創造行為へと誘い導いてゆく力が底流となって潜んでいる。読者は推理や記憶を刺激され、共感をおぼえながら創造へと向かう長いプロセスを追い始める。 「スワン家のほうへ」冒頭からエピソードをいくつか選び出し、それらがどのように反復されつつ長編小説全般におよぶ底流を形成してゆくかを見てみよう。(なお、邦訳では第一篇のタイトルが「・・・の方へ」と訳されることが多いが、ここではひらがな表記を使用したい。第一篇の仏…
子どもの頃、不眠で悩み、悩んで不眠になっていた親が、 J.S バッハの「ゴルトベルク変奏曲(Goldberg-Variationen)」のCDを聴いていた時期があった。 かのグレン・グールドのピアノ演奏だった。 どうして親が「ゴルトベルク」を聴いていたのか分からないが、たぶんこの音楽が「不眠症に悩む貴族のために演奏された」という言い伝えがあるからだと思う。 しかし今インターネットで簡単に検索した情報によると、不眠症に悩んでいた伯爵は当時14歳だったそうで、本当に不眠に悩んでいたのか怪しいらしい。 私の親は「たしかによく眠れる気がする」と言っていたから「暗示」の力は大きいと思う。 さらに私自身も…
先日の台風の影響なのか、あれから朝夕はぐっと寒くなりましたです。これ まで吹き抜けのホールのところにおいたビューローでパソコン作業をしていたの ですが、本日はすこし着込まなくては過ごすことができなくなっています。 無理せずに、すこしあったかな居間に場所をかえて作業することにです。 本日の新聞夕刊を手にしていましたら、津村記久子さんのコラム「となりの 乗客」の書き出しに次のようにありました。 「お中元を包んでいた包装紙でブックカバーを作って、かなり重宝している。折り 目があったりしわが寄ったりしているけれども、ちょうどいい厚さだったのだ。 文庫本と単行本併せて四枚分ある。ブックカバーが手に入って…
台風の目からは、ずいぶんと遠いのでありますが、こちらも夜になって雨が ひどくなってきました。先程まではBS放送を見物しておりましたが、これも悪天 候が影響して受信できぬようになりました。このひどい雨はどのくらいまで続く のでありましょう。 たぶん、明日の朝には雨は小康状態となっているのでしょうが、パソコン作業を しているところは、吹き抜けのところで、屋根にあたる雨の音が、けっこう大きく 聞こえてきます。屋外に雨にあたって困るものは、置いていなかったよなと思い 返すことにです。 「敬老の日」ではありますが、いつもの月曜日でありまして、朝からパンの仕込 みをして、お昼をはさんでトレーニングにいって…
ありえない文章を夢見ることがあります。イメージだけがあって、そんな文章が書けるはずがないのに、書きたいと願うのです。 途方もないのが夢であり、夢は何でも肯定してくれますから、それに甘えてありえない文章を夢想してみたいと思います。 レトリックだけでなりたっているような文章 運ばれていくように読める文章 「まだ、まだなの?」感のある文章 楽曲のように読める文章 用言体 ありえない夢 レトリックだけでなりたっているような文章 内容なんて無い様なもので、物と事の有り様がきわだつ。ただ言葉の形と模様と動きだけがきわだつ文章。泉鏡花の文章をイメージしてもよろしいのではないかと思います。ただし、レトリックは…
今年の2月から読み始めて、現在、「ゲルマントのほう Ⅲ」の半分くらい。
図書館から借りている本の返却日はいつであったかと確認することです。 借り出しますとレシートのような紙に本のリストと返却日がプリントされている のですが、それを本にはさんで、何日までですと渡してくれるのですが、本には さまっていると思って、チェックしてみましたら、その紙がみつかりません。 あらまどうしたと探してみましたら、なんとか発見で、それによりますと14 日が返却日となっていました。あと四日でありますね。 借りている本は5冊で、いちばんの難物は「秘密の戦争」でありますが、苦戦し ながらも半分は過ぎて、残るところ150ページを切りました。なかなか前には 進まないと言いながらも、なんとか最後まで…
2日ほど前からプルーストの岩波文庫は8巻目「ソドムとゴモラ」に入ったの ですが、これが思いのほかでページが進みます。 とはいっても訳者の吉川さんがいうように3日もあれば一冊あがりますよと いうようなペースではないのでありますが、これまでのどの巻よりも順調であり まして、この調子で進めば、予定よりも早くに最後にたどりつきそうなのですが、 そのように運ぶでありましょうか。 もっとも、この巻の初めの話題が同性愛であるからでありましょうか。この 時代においても、いまだ後ろ指をさされそうな同性愛でありますが、プルースト の時代においてはさらにであります。 プルーストの小説の一部を引用するのは、ひどく難し…
本日も夜遊びとなり、午後になってから車で移動してちょっと離れた町のホールに きました。こじんまりとした施設である弾き語りのソロライブを見物です。 人気の実力派が、わざわざこのような小さなホールに出向いて公演するというのが、 この方の音楽に向き合う姿勢でありますね。 終始席に座って、静かに歌を聴くことになりですが、最近はこのようなライブは 少なくなっているようです。 本日に一番驚いたのは、少しでしょうが当日券が販売されていたことで、こうした 足の弁の悪い小さな町でのコンサートは、彼をしてもチケットセールスは大変である のですね。それだけに、こうした町でライブをやってくれる彼に感謝であります。 コ…
フランス文学の話。 面白い論説を見つけたので紹介します。執筆者はモーパッサン愛好会の方です。 モーパッサンの語彙に関する量的研究 Une étude quantitative du vocabulaire de Maupassant 内容は「モーパッサンの文章は本当にシンプルで明瞭なのか?」という問いについて、フローベール、ゾラ、プルーストという似た時代の作家(巨匠)との比較で、計量的に比較して検討したもの。 それぞれ幾つかの代表作を標本として、コーパスという計量分析ツールで品詞ごとの語彙使用数を抜き出したようです。 そのまま内容を書くと盗作になってしまうのでエッセンスだけ。 ・フローベールは…
所得税の確定申告の時期になりまして、税の還付を受けたらどのように使おう かなと、そんなことばかりを考えておりました。本日にあれこれと書類をそろえ て、申告書作成画面で打ち込みをやりましたら、あらま天引きされている税金が いつもより少なくて、逆に支払いが発生することになりです。 ほんと取らぬ狸のでありまして、これは誤算でした。 何かを買うよりも借りて済まさなくてはで、本日は図書館本の入れ替えを行う ことにです。何回借り換えをしても、ほとんど読むことができていない一冊も あるのですが、もうすこしがまんして借りようと思ったのと、新しく借りたもの も含めて5冊でありました。 こんな本が入ってましたかと…
机からの落下の衝撃により、グリップが分離破損してしまった銀軸のボールペンをお直ししました。このペンはモンブランの作家シリーズ(限定)で、1999年発売のマルセル・プルースト(万年筆・ボールペン・ペンシル)。 本体軸と繋ぐ雄ネジのほぼ根元から、水平に破断してしまっています。ここは丈夫な樹脂材を使ってネジ+α(接着しろ)を作って接合するよりも、オリジナルと同じ一体構造の方が安定する筈なので、全く同じパーツを作ることにしました。 強度を重視しエボナイトを使って作りました。メタルの口金は再利用します。 口金、デコリングを装着、そしてガイドチューブを挿し込みます。 このインナーチューブにはグリップを繋ぐ…
皆様お久しぶりです。年が明け、1月があっという間に終わってしまいました。 今日は2月3日、節分ですね。 子供の頃は、節分の日に保育園に登園すると、教室に置かれた大きなストーブの上で先生が豆を炒っていて、教室中に大豆の良い匂いが広がっていました。 今でも大豆を炒るにおいを感じるとその頃の記憶がふわっとよみがえります。匂いの記憶は残りやすいそうで、このように匂いから昔の記憶が蘇る事を「プルースト効果」と いうそうですよ。 節分といえば恵方巻ですね、毎年とっても美味しそうな恵方巻がお店で売られています。なんだか年々豪華な物や変わり種が増えて、見ているだけでも楽しいのですが、家では昨年から恵方巻は手作…
今日の朝、何となくはてぶでニュースをチェックしていると。こんなのがホットエントリーになってた。 b.hatena.ne.jpまだやってんのか、この話。俺はこの宇佐美典也って人の発言が、どうも好きになれない。三浦瑠璃氏に抱く印象に似ている。その話は前にもした。 gyakutorajiro.comColabo問題より五輪談合問題の方が額がデカいだろ?なんで中抜き企業に、俺たちの都民税、税金を流してんだ!オリンピックの会計どうなってるんだ、説明しろや。 って、思わないのかな?なんでColaboの方に固執する? 宇佐美典也氏、まあ元経産省だからステークホルダーには矛先は向けられねえのだろうかね。 Co…
2021〜22年に発表されたマーガレット・アトウッドの短編とエッセイを読みました。思えば2012年からナオミ・オルダーマンとOnline Onlyのwattpadで"The Happy Zombie Sunrise Home"という短編を共著していたりと、インターネット媒体を活用することも非常に多いアトウッド。Greenであることを重要視する彼女と、インターネットの活用は切っても切り離せないものなのかも。最近でもScribdやAmazon Originalでebookとして読める短編小説を発表している。 "Two Scorched Men" "Driving Lessons" "Old Bab…
終遠のヴィルシュ -ErroR:salvation- こんにちは、のらです🐈 終遠のヴィルシュ、ようやくプレイしクリアしましたー! いつからプレイしてたか聞いてくれます…? なんと、8月です。真夏の!暑いあの夏! 5ヶ月もプレイしてました(長すぎ) まあでも去年は忙しかったから…!仕方ない…! 一つの作品をプレイし始めると余程のことがない限りはひとすじ派なので、ホントに夏からアルペシェールから一歩も出れなかった。 忙しい合間にちょっとずつやっていたので途中ダレた瞬間もあったんですけど、なんせお話がしんどすぎるから、よっし!ゲームすんぞ!!っていう意気込みになりにくいっていうのもあった。 リアル…
kaie氏よりコピペ われわれには原抑圧 Urverdrängung、つまり欲動の心的(表象-)代理psychischen(Vorstellungs-)Repräsentanz des Triebes が意識的なものへの受け入れを拒まれるという、抑圧の第一相を仮定する根拠がある。これと同時に固着 Fixerung が行われる。(フロイト『抑圧』Die Verdrangung、1915年) リビドーは固着を置き残す ・リビドーは、固着Fixierung によって、退行 Regression の道に誘い込まれる。リビドーは、固着を発達段階の或る点に置き残す(居残る zurückgelassen)の…
今週のお題「マメ」 これほどの物価高は41年ぶりと言われておりますが、ガス代電気代が倍くらいになって家計はとんでもない状況です。この状況の下で国民所得を増やす手立てをとらない政府=岸田内閣の無策ぶりには憤りを通り越して情けないばかりです。 ことしの一月末頃から、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』を、筑摩世界文学大系の井上究一郎氏訳で読んでおり、現在84ページです。 マメに読み、マメに毎日書かないといけませんが、サン・シモンの著作が出てくるのがおもしろいです。 ミャンマー軍事クーデターも、ロシアのウクライナ侵略戦争も、コロナ禍も、高物価もまったく解決しないまま、地球環境破壊で世の中が滅…
アメリカ文学研究者で翻訳者である筆者が、主に20世紀後半以降に書かれた実験小説を色々紹介してくれる本。 今、海外文学読むぞ期間を個人的に展開中だけれど、それのガイドになればなあと思って。それ以前から気になっていた本ではあるけれど。 どういう手法を使っているのかという解説だけど、あらすじも紹介されていて、物語の面でも普通に面白そうな作品が多い印象。 また、各章末に、その章で取り上げた作品と手法などで似ている作品のブックガイドもついている。 ナボコフ『青白い炎』パヴィチ『ハザール事典』ベイカー『中二階』ダニエレブスキー『紙葉の家』ミッチェル『クラウド・アトラス』フォア『ものすごくうるさくて、ありえ…
2023年1月の資産状況 湖南(こなん)です。 前回の記事で中途面接を受けたが内定を辞退した話をしました。そのちょっとした続きとして、つい先日に現職で源泉徴収票が出ていたので見てみたところ。 採用通知書に記載されていた理論年収と、源泉徴収票の給与支払金額が、一番上から千の位まで全く一致。ここまで揃うとはある意味奇跡ですね……。 その他最近の話題としては昨今の電気代高騰の煽りを我が家も受けており、オール電化の優位性がいよいよなくなっているのが辛い所です。今年はふるさと納税等もフル活用して日常的な食料品も買うなど節約していくしかないのかもしれません。 月例の資産状況となります。 いつも通り運用可能…
失われた時を求めて(7)――ゲルマントのほうIII (岩波文庫)作者:プルースト岩波書店Amazon 冬に向かうパリ、「私」をめぐる景色は移ろう。――人妻との逢い引きの期待は破れるも、かつて夢見た「花咲く乙女」とはベッドで寄り添い、憧れのゲルマント公爵夫人からは晩餐の招待が舞いこむ。上流社交界で目にした気品と才気の実態、シャルリュス男爵の謎、予告されるスワンの死……。人間と社会の機微を鋭く描く第7巻。 ゲルマント公爵夫人の晩餐会がとてもながく描かれる。その後、再度ゲルマント家を訪問するくだりはとても読みやすい。スワンがもはやドレフュス派かどうかで人間の価値を決めるようになっている。
去年の生誕祭の少し前、夫の友人から工芸茶を頂いた。工芸茶というと人間の手が加えられた高度な芸術品というイメージが先行するが、Flower teaである。紐で括られ丸く縮こまっていた草花がゆっくりと開き、湯のあいだをしばらく揺蕩う。おそらく最も美しい瞬間に摘まれ、見映えよくととのえられた、悲しき商品という偏見は、湯のなかのジャスミンやカーネーションの素朴な美しさの前に、崩れてしまった。草花はどんな厳しい環境にあっても最後まで自身の生命の輝きを守り続けている。そのしなやかなあり方がうらやましいと思う。草花の仕草に見惚れていると、プルーストの文章が自然に浮かんでくる。 日本人がよくする遊び──陶磁器…
「何ひとつ怯えずに君が眠っていたらいい、とか、何度でもやさしい夢だけみてていいよ、とかそういう愛の形態が美しいと思う」と2021年10月27日にツイートしていた。どちらもplastic treeの曲の歌詞だ。セカイ系的世界観ともいえるかもしれないが、いろいろ残酷なことのある現実世界から愛する人だけ隔離して、わたし/ぼくがシェルターになってあげるよ、みたいなのに弱いのかもしれない。眠るのが好きなだけかも。 夢に関する文章で好きなのも多い。またプルーストを引きたいところだが、プルーストがエピグラフとして置かれている金井美恵子の「水鏡」でも引いておこう。 今にも雨が降りそうな重苦しい天気で、むし暑い…
第四章 マーフィーの法則と精神分析学 ――我々の意識が知り得ることのできないメカニズムの存在について―― 第一節 我々の不思議な行動 相手にやたらに親切になったり、冷たくなったりする。自分の最も大事だと思っていた人や自分を苦労して育ててくれた親とも、突然大げんかになってしまったりする。その後たいそう後悔するのだが、またさらに激しくけんかしてしまう。他人の不幸を悲しむこともあるが、逆にそれに快を感じることもある。 我々のこのきまぐれな行動はどうなっているのか。感銘する、怒る、悲しむ、といったことが「どこからか」かってに我々のところに「到来する」という感じである。それらの行動は、我々がやっていると…