春、虫が動き始める。私は虫が嫌いだ。ずっと嫌いだったわけではない。小学生の遠足のとき、毛虫を大量につかまえて、ビニール袋に入れて団地の水道メーターに保管した。保管したものの大量の毛虫はやっぱり怖くなって、水道メーターのドアを開けることはしなかった。袋から脱出した毛虫が団地の階段を這い出し始めた。水道メーターのドアの向こうでは、ビニール袋から逃げ出した毛虫どもがうじゃうじゃと這い回っているに違いない。おぞましい。絶対に開けたくない。 おれも動き始める。 お隣さんが訪ねてきた。犯人は私に決まっている。お隣のおばさんの監視付きで、おぞましい毛虫のうじゃうじゃ現場の片付けを行う。おぞましい。そのことが…