九歳の少年が絞首刑に処せられた。 一八三三年、イギリスに於ける沙汰である。 罪は窃盗。よその家の窓を割り、保管されていたペンキを奪(と)った。 被害総額、当時の価格でおよそ二ペンス。たった二ペンスの報いのために、前途にきっと待っていたろう何十年もの未来ごと、幼い身体を吊られたわけだ。 深く考えるまでもなく、間尺に合わぬことである。 ドイツのとある青年は、恋人と抱擁した所為で心臓が破れる憂き目に遭った。 熱烈な恋の比喩(たとえ)にあらず、純粋に物理的な現象である。 なんでも彼女のコルセットに裁縫用のピンがささったままであり、僕の腕に飛び込んでおいでをやった際、運悪くその尖端が肋骨の合間をくぐり抜…