0.はじめに Hans Werner Henze は20世紀〜21世紀にかけてコンテンポラリー作曲家として名を馳せている。1980年代後半に彼は三島由紀夫『午後の曳航』を題材にオペラを作曲した。今回,このオペラの改訂版,ドイツ語版の日本初演が2023年11月23日,日比谷の日生劇場で上演された。以下はその所感と考察である。 1.家父長制度と戦後の父親ープロイセン的父像への疑念と破壊 三島由紀夫の原作にはこんな下りがある。 正しい父親なんてものはありえない。なぜつて、父親といふ役割そのものが悪の形だからさ。奴らは僕たちの人生の行く手に立ちふさがつて、自分の劣等感だの、叶えられなかつた望みだの、怨…