どこに住めば仕事ができるのか? 収入が増えるのか? 才能が開花するのか? 30歳の頃の私はそのような現金な問いをえんえんと繰り返していた。 経済学や地理学、あるいは地政学の本に感化されたのではないか、と思われるかもしれないが、私の場合は文学だった。当時、〈塔〉という短歌の結社に入っていて、毎月1回(日)、浅草橋の中央区産業会館で歌会を開催していた。所沢の下宿を出て、そこに参加する中で、私はそのような歌を通じた社交が、歌人ないし文学者を育てるのではないかと漠然と感じていた。中村真一郎は『色好みの構造』の中で、文学の秘訣は「孤独ならざる社交生活」と看破しているが、当時の私には、先生とライバルが身近…