Robert Bresson (1901-1999) フランスの映画監督。自作を「シネマトグラフ」と呼び、大仰な表現を排したストイックな作風を確立した。
シネマトグラフ覚書―映画監督のノート
ロベール・ブレッソン研究―シネマの否定
ラルジャン [DVD]
ブローニュの森の貴婦人たち [DVD]
ロベール・ブレッソン DVD-BOX 1 (ジャンヌ・ダルクの裁判/湖のランス口/たぶん悪魔が)
ロベール・ブレッソン DVD-BOX 2 (スリ/バルタザールどこへ行く/少女ムシェット)
抵抗-死刑囚は逃げた [DVD]
同じ匂いはするが似て非なる別物 こう書くと誤解がありそうだが、個人的には双方とも最愛の映画作家である。事実、ジャン=ピエール・メルヴィルとロベール・ブレッソンはよく比較されるし、「海の沈黙」と「抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-」は、第1回岩波ホールセレクションにて上映された。そして、今回の記事の目的は、唯一日本語版の全作品を所持している(VHSを除く)映画作家なのに、未ソフト化の作品がある。そのソフト化を渇望し、啓蒙活動としたい。【永久保存版】 目次 【メルヴィルvsブレッソン】価値観の形成について 【メルヴィルvsブレッソン】ふたりの違いと共通点について 【メルヴィルvsブレッソン】…
1944年ロベール・ブレッソン監督。 18世紀フランスの哲学者ドゥニ・ディドロによる小説「運命論者ジャックとその主人」が原作。ブレッソンが脚色し、ジャン・コクトーがセリフ監修とのこと。 男が女のいうことを額面通りに解釈する悲劇が面白いドラマ仕立てになっているように感じる。 男性の振る舞いが鈍感すぎて女の復讐してやるという気持ちには大いに共感するのだが、そのやり方が。。女にも半ばマゾヒスティックな部分があるのかな。ブレッソン、「ラルジャン」*1を観た時も結論の不条理、だけどそこまでの話法のうまさに惹きつけられたが、この作品にもそれを感じた。 財力にものを言わせて、踊り子をしている没落した家の娘を…
映画『やまぶき』山﨑樹一郎監督最新作 エドワード・ヤンの「恐怖分子」(’86)だ、と本編が始まってからずっとあの映画を想起してみていた。一見関係のない人間関係がある偶然によって繋がって行く。 正社員に、と吉報を貰った砕石工場職員チャンス(カン・ユンス)がさる不運に見舞われ、犯罪に手を染めるのはブレッソン「ラルジャン」('83)も思わせる。 ラルジャン ≪スペシャル・プライス≫【Blu-ray】 [ クリスチャン・パティ ]価格: 1650 円楽天で詳細を見る チャンス、シニカルな役名だ。 「ここではないどこか」へ向かう人々ではなく「どこかから来て(仕方なく)ここにいる」人々。 16㎜フィルム、…
ロベール・ブレッソンはプロの俳優をキャスティングせず素人を起用することが多いのはよく知られた話である。『たぶん悪魔が』に登場する若者たちも非職業俳優であり、その無表情な顔や自然体というよりはなかばぞんざいなふるまいが五月革命以後のパリの空気感、閉塞感を纏っているかのようにスタンダード・サイズの乾いた画面に映っている。そのような有り様が自殺願望に取り憑かれる美青年シャルルを筆頭に、虚無感に苛まれ無気力に生きるしかない登場人物たちの役柄にまさしく適している。ゴダールがそうであるようにブレッソンも音声の処理に多大な注意を払い、映像のみならず映画における音声の存在を重要視している。助監督を務めた人の話…
ロベール・ブレッソン監督による1977年作『たぶん悪魔が』について。ロマン主義的に絶望の中から美を求める主人公が、非人間的な手続きで組み上げられた社会に回収されていく映画として。そして、ブレッソンの映画はその方法によってその社会への抵抗となっているのではないか。 あらすじ 3人の男に表される現代的な精神崩壊の過程 非現実への浮遊 / 主人公の求める美 人間性の剥奪された手作業 / 手続き ロベール・ブレッソンにおける手作業 作品詳細 関連記事 あらすじ 裕福な家柄の出でありながら自殺願望に取り憑かれている美しい青年シャルルは、政治集会や教会の討論会に顔を出しても違和感を抱くだけで何も解決しない…
ロベール・ブレッソン監督による1974年作『湖のランスロ』について。近代化していく社会が破滅する映画であると同時に、近代化し切った社会が破滅する映画でもあるという二重構造となっている。その二つが音によって組み立てられ響き合うようになっている。 www.youtube.com あらすじ 音の対比 行き場のない近代社会の破滅 近代化していく社会の破滅 感想 / レビュー / その他 作品詳細 関連記事 あらすじ 城に帰還したものの、聖杯探しに失敗し多くの戦死者を出したアルテュス王の円卓の騎士たち。その中のひとり、ランスロは王妃グニエーヴルとの道ならぬ恋に苦悩していた。神に不倫をやめると誓うランスロ…
ロベール・ブレッソン監督による1969年作『やさしい女』について。主人公が絶望に至る過程を撮った映画である一方で、監督自身の方法論によってこの映画自体が劇中のマクベスと重ね合わされ、ある種の希望のようになっている。 www.youtube.com あらすじ 抜け出せなさへの絶望 救い / 抵抗としてのシネマトグラフ 作品詳細 関連記事 あらすじ 「彼女は16歳ぐらいに見えた」。質屋を営む中年男は妻との初めての出会いをそう回想する。安物のカメラやキリスト像を質に出す、若く美しいがひどく貧しい女と出会った男は、「あなたの望みは愛ではなく結婚だわ」と指摘する彼女を説き伏せ結婚する。質素ながらも順調そ…
ロベール・ブレッソン監督による1967年作『少女ムシェット』について。 鳥としての少女 冒頭の鳥と同様に、ムシェットは地べたでの生活をしており、どこに行っても罠がある。その中で、物理的にも雨に打たれて泥まみれになるのが描写されていく。母親の死と強姦によって周囲からも疎外され、完全に罠にかかった状態になる。 最後の入水シーンにおいて、ムシェットは映らずに抱えてた死装束と水飛沫だけが映る。鳥と同じくその地べたでの生活から飛び立っていったような、ある種自由になったような印象を残して終わる。 『バルタザールどこへ行く』におけるロバとマリーが一体化したような存在がムシェットであり、喜劇的な雰囲気や前日譚…
ロベール・ブレッソン監督による1966年作『バルタザールどこへ行く』について。 無力な存在としてのロバ 幸せそうな家庭があり、ほとんど結ばれてるような幼馴染がいて、大切に飼われているロバがいるという理想的な状況がある。しかし、その幼馴染は結ばれず、家庭は破産し農具が近代化することでロバは必要なくなる。既存の生活が時代や価値観の変化にのまれて完全に崩れていく。そして最後に最初の幸せだった頃が幻想の様に繰り返されて終わる。 幸せだった時を未だに見つつも、変化に対して傍観することしかできない無力な存在としてロバが配置されており、そのロバの瞳を見る映画であるような感覚もある。成長したマリーが幼馴染の父…
ロベール・ブレッソン監督による1962年作『ジャンヌ・ダルク裁判』について。 象徴することとしないこと カール・テオドア・ドライヤーの『裁かるゝジャンヌ』が権力差や体制の暴力性、内的な葛藤など、裁判に関わる要素の象徴的な演出に溢れていたのに対して、この映画は主軸の3人、そのうちの2人の会話を手続き的に繋げたようなものになっている。その他の要素で象徴的なものは、単調で均質な大衆のヤジ、覗く側としての男とその内輪でのゴシップくらいのみであり、それぞれにほとんど変化がない。ドラマティックになりそうな火刑のシーンも煙で気絶してそのままであり、基本的に事実以外は何も語らないような演出になっている。 そう…
こんにちは。何故か観逃していました。「蛇の道」(1998)の方はどうやら2024年に日仏合同で黒沢清がリメイクするらしいのですが「蜘蛛の瞳」(1998)は初めて観ました。そしてやっぱり黒沢清凄いなと思いました。復讐シリーズは前年に「復讐 運命の訪問者」(1997)と「復讐 消えない傷痕」(1997)があってそちらではしっかりエンターテイメントとして作っている一方こちらは思い切り作家性に振り切った作風になっています。1997年という年は「CURE」(1997)も撮っていて恐らくもう物語の完成度を突き詰める方向から舵を切り始めた頃ではないかなと思われます。そしてその反動から生まれたのが「蜘蛛の瞳」…
全7項目●代表作 ●「10 best films Cahiers du Cinema」 ・「パリ解放後のフランス映画」20本 ・年間ベスト17本 ・1962年 ・1965年 ●「現代の映画作家」「Jean Vigo」で引用 「新学期・操行ゼロ」より 全7項目 ●代表作 「アデュー・フィリピーヌ」、 「オルエットの方へ」等 映画監督、脚本家、プロデューサー等で活躍するジャック・ロジエ(ジャック・ロジェ)が影響を受けた・好きな映画。 ●「カイエ・デュ・シネマ(Cahiers du Cinema)」の「Jacques Rozier 10 best films Cahiers du Cinema」より…
全3項目 ●代表作 ●「Sight&Sound」の「映画監督が選ぶオールタイム・ベスト 2012(The Greatest Films of All Time 2012 / All voters)」より10本 ●「The Criterion Collection」の「Gregg Araki's Closet Picks」より6本 「男性・女性(ジャン=リュック・ゴダール)」より 全3項目 ●代表作 「ミステリアス・スキン(謎めいた肌)」、 TVドラマ監督「レッド・オークス」2本 等 映画監督、脚本家、プロデューサー、TVドラマ監督 等で活躍するグレッグ・アラキが影響を受けた・好きな映画。…
本書を構成するジャック・デリダのアルトー論「基底材を猛り狂わせる」は、みすず書房から単独出版されていて、こちらの方が本体2400円と値段も安いこともあって、よく流通している。私の所蔵しているのもこちらの版であるが、今回縁あって、本来の造本の形態である本書の形態、アルトーのデッサンと、アルトーの遺産管財人でもあるポール・テヴナンのアルトー論「失われた世界の探究」と併載された、アルトー画業の集大成の一冊として、新たに読み直してみた。本体20000円の本作品は、刊行後数年経ってまだ在庫が店頭に並んでいた池袋の三省堂二階で手に取ってみたものの、さすがに気軽に手が出るものではなかったことが記憶に蘇る。 …
パンフレット EO イーオー 映画 ノーブランド品 Amazon イエジー・スコリモフスキ監督『EO イーオー』鑑賞。ヒューマントラストシネマ有楽町にて。 イーオーと名付けられたロバの放浪の旅を描く異色作。サーカス団の女性の記憶を頼りに、イーオーは何度も捕らえられては脱走を繰り返し旅を続ける。監督は『早春』『ザ・シャウト/さまよえる幻響』のスコリモフスキ。 ロバを取り巻く世界は、本作の原型となったロベール・ブレッソン『バルタザールどこへ行く』よりさらに直接的な暴力と美に満ちている。殺処分する電気ショックの残酷な響き。ロバを運ぶ車窓から見える草原の馬たちの躍動感。脱走したロバを照らす真紅の朝焼け…
<いろいろネタバレあります> 何やら陰鬱な表情の、若い田舎司祭が新しく村にやってくる。「ラルジャン」のロベール・ブレッソン、誰にでもある良い心と悪い心の葛藤や、悪運に巻き込まれて逃れられない運命を、あの映画でも描いてたように思います。 この設定や白黒の禁欲的な画面で思い出すのはミヒャエル・ハネケ「白いリボン」ですが、あっちは司祭に妻が来るし、閉塞的な村から徴兵によって抜け出しました。この映画で村人が語る「自分が従軍したときの上官は元牧師だった、彼はラバの上で戦死した」ということばが、「白いリボン」の牧師の行く末だったら切ないなぁ、と思ってしまった。村の人々は「白いリボン」のほうが悪辣で、こちら…
ポーランド出身の映画監督イエジー・スコリモフスキは、名の知られた監督ではあるけれども、実はわたしはこの監督の作品を観た記憶がない。そもそも20年ぐらい映画を撮らなかったブランクがあるし、その前の作品は日本では未公開だったのではないかと思う。2010年のヴィンセント・ギャロが主演した『エッセンシャル・キリング』は観ているかもしれないけれども、記憶が何もないので観ていないのと同じである。 ただ、ポーランド出身ということで、ロマン・ポランスキー監督の長編デビュー作『水の中のナイフ』の脚本に協力していたということで、この映画は最近観たので記憶している。それから俳優としても活動されているそうで、何と、『…
イエジー・スコリモフスキ(Jerzy Skolimowski 1938-)監督作品、「EO イーオー」(IO, 2022)が5月初旬から各地のミニシアターで公開されています。 eo-movie.com 私は、映画は映画館でみるべき、という考えを全くもっていません。 しかし、ごく稀に、これは劇場で鑑賞しないと真価がほとんど味わえないだろう、と思われる作品に出会うことがあります。 「EO」はそういう映画でした。 2022年のカンヌ国際映画祭で「サウンド・トラック賞」を受賞している作品。 実際に鑑賞して、驚きました。 もちろん映像もすばらしいのですけれど、「音響」の威力がこれほど凄まじい映画も珍しい…
一条真也です。東京に来ています。有楽町で打ち合わせをした後、ヒューマントラストシネマ有楽町でポーランド映画「EO イーオー」を観ました。主人公はなんと、1頭のロバ。手がけたのは84歳のポーランドの巨匠、イエジー・スコリモフスキ監督。興味深い内容ではあったのですが、ロバが主人公ということでストーリー性に乏しく、前半はかなり熟睡してしまいました。 ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。「『イレブン・ミニッツ』などのイエジー・スコリモフスキが監督などを手掛け、一匹のロバを主人公に描くロードムービー。サーカス団から出てさまよう旅路をロバの視点で映し出す。スコリモフスキ監督の『エッセンシャル・キ…
先日のキネ旬シアターは『EO イーオー』でした。 監督:イエジー・スコリモフスキ 出演:サンドラ・ジマルスカ、ロレンツォ・ズルゾロ、イザベル・ユペール 製作:2022年 ポーランド・イタリア ポーランドの監督スコリモフスキがロベール・ブレッソン監督の『バルタザールどこへ行く』に触発され、ポーランドのサーカス団で暮らしていたEO(イーオー)と呼ばれるロバの生きざまを追った映画です。 高校生時代に映画にのめり込んでいた頃、難解な映画を観てわかったつもりでいい気になっていた頃、ちょうどその頃にこの『バルタザールどこへ行く』を見たことを思い出しました。この映画もロバの生涯を描いた映画でした。人間の勝手…
●代表作 ●「konbini」の「Louis Leterrier est dans le Vidéo Club et on peut dire merci à Astérix et Obélix : Mission Cléopâtre」で語った主な映画22本 「ダーククリスタル」より ●代表作 共同監督「トランスポーター」シリーズ、 「ワイルド・スピード ファイヤーブースト」、 TV人形劇「ダーククリスタル: エイジ・オブ・レジスタンス」等 映画監督、プロデューサー、俳優 等で活躍するルイ・レテリエが影響を受けた・好きな映画。 ※2023年6月9日追加:代表作に「ワイルド・スピード ファイヤー…
「EO イーオー」2023年5月6日(土)新宿シネマカリテにて。午後2時より鑑賞(スクリーン1/A-11) ~こんな映像観たことない!? ロバを主人公にした驚きの映画 カンヌ、ヴェネチア、ベルリンなどの国際映画祭で受賞歴を持つポーランドのイエジー・スコリモフスキ監督。今年85歳のこのベテラン監督の7年ぶりとなる作品は、なんと人間ではなくロバを主人公にした映画。その名も「EO イーオー」。 しかし、まあロバと言ったら私なんかは『おはよう! こどもショー』のロバくんを思い出しますなぁ。愛川欽也が演じておりました。まさに名演でした。て、いつの時代の話だよ! 若い人はわかんないだろ! そんな余談はさて…
「EO イーオー」を観た。 「早春」「アンナと過ごした4日間」「エッセンシャル・キリング」などで知られる、ポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキ監督が手掛けた、ロバを主役としたロードムービー。2015年「イレブン・ミニッツ」以来、7年ぶりに長編映画のメガホンを取っている。出演は、タコ/マリエッタ/オラ/ロッコ/メラ/エットーレの6匹のロバを中心に、ポーランド人俳優のサンドラ・ジマルスカ&マテウシュ・コシチュキェビチのほか、「ザ・キャビン 監禁デスゲーム」のロレンツォ・ズルゾロ、「エル ELLE」のイザベル・ユペールなど。第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門では、審査員賞と作曲賞の2部…