梶井基次郎(1901 - 1932) 梶井基次郎『闇の絵巻』を解説する気はない。十枚ていどの短篇だが、解説しようとすればその枚数を超えてしまう。ナンセンスだ。 話相手はなく、仕事も手に着かない。転地療養中の主人公は、深い谷に抉られた急峻な山路に沿う集落に過している。散歩だけが、ことに日没後の急速に暮れゆく風景を凝視して歩く散歩が、彼の日課だ。平凡な眼には映らなかったはずの、砂粒のような光景やら瞬間やらが観逃されずに視聴覚化され、断片逸話として列記された。まさしく絵巻物だ。 それぞれの逸話は、眼による観察だの発見だのといった水準を遥かに超えて、もはや魂による発明と云ってよい。さように描き記されて…