引続き『木枯し紋次郎』。 ――(芥川隆行声)木更津からさらに南下する房州浜道からは、天気の好い日には海を越えて遠くに富士が望めた。江戸時代なかごろ以降、一帯は天領もしくは旗本領に区分されたため、領主の警察権力の眼が届かず、村落の多くは無警察状態となっていた。いきおい流れ者や無頼の徒の吹溜りとなる村落もあった。 知恵者たる村の長老は、器量好しの孫娘を伴って、街道筋の宿場へと出かける。腕の立つ男を買いにだ。村の寺に巣食う無頼漢たちを、追出してもらおうとの算段だ。黒澤明『七人の侍』のパターンである。腕達者などやすやすと見つかるはずもなく、一度は性悪に引っかかってひどい目に遭わされるところまで同じだ。…