確か、さっきまでは騒々しく聞こえていた 鳥の歌も、風の声も、木々のさざ波も止んだ 目を閉じると黄金に輝く大地が視える 空一面には沢山の不思議への扉が視える マエリベリー・ハーンの姿も手の届きそうな所に視える そうか、今日は夏では無かったんだ 隠されていた五つ目の季節が現れる 完全に失われていたこの世の姿が蘇る この国のタブーが、いま破られたのだ! ——『七夕坂夢幻能』10節 「五つ目の季節」すなわち土用なる概念の何たるかを理解するためには東アジア世界の伝統である五行思想と太陰太陽暦について知らねばならない。しかしこれを理解すると、同時に『七夕坂〜』の記述に含まれるひとつの問題に行き当たることに…