戦時ラブコメは、設定がむずかしい 昭和の人気作家・獅子文六の『虹の工場』(新潮社『日の出』昭和15年1〜12月連載)は、いわば戦時ラブコメです。 【巨大軍需工場のお坊ちゃん】と、【町工場の職工】が、ひょんなことから同じ女の子(キャフェの女給)を好きになってしまうお話で、舞台はなんと蒲田。 「え?戦争中にラブコメが成立するの?蒲田で?」と思われるかもしれませんが、これがギリギリのバランスで成立しているのです。連載時の昭和15年は斎藤美奈子さんがいう「戦争初期はイケイケ気分」(『戦火のレシピ』岩波現代文庫)が、まだあったらしい。 もっとも、このバランスはとても微妙で。 “主要人物が(この時点では)…