三浦雅士(みうら まさし) 1946年青森県生まれ.1970年代,『ユリイカ』『現代思想』の編集者として活躍.現在,文学,芸術を中心に評論活動を展開する一方で,雑誌『ダンスマガジン』『大航海』の編集長をつとめる. 著作に,『私という現象』『主体の変容』『幻のもうひとり』『メランコリーの水脈』(サントリー学芸賞)『夢の明るい鏡』『寺山修司』『死の視線』『疑問の網状組織へ』『小説という植民地』(藤村記念歴程賞)『身体の零度』(読売文学賞)『バレエの現代』『考える身体』『バレエ入門』等.
三浦雅士氏『身体の零度―何が近代を成立させたか』ー令和三年七月三十一日(土)酷暑 「古代文化のなかでは、競技がつねに神に捧げられた祝祭の一部をなし、幸をもたらす神聖な儀礼として、不可欠なものとされていた。この祭祀との関連が、現代のスポーツではすっかり失われてしまった。スポーツは完全に奉献性なきものと化し、また、たとえ政府権力によってその実施が指示された場合でさえも、もう何ら社会の構造と有機的な繋がりをもたないものになってしまった。それはなにか実りを生む共同社会の精神の一因子というより、むしろただ闘技的本能だけの、孤立的な表れなのだ。」(ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』中公文庫プレミアム、457頁…
展覧会『須田日菜子「噛み合わない会話」』を鑑賞しての備忘録KATSUYA SUSUKI GALLERYにて、2024年4月6日~21日。 スプレーを用いて限られた数の線で身体を描き出した「Discordant conversation」シリーズを中心とする、須田日菜子の個展。 《hip to face》(1940mm×1620mm)は、左腕を頭上に挙げ、右肘を曲げて右手を前に突き出す人物の後ろ姿を、スプレーで吹き付けた黒い線で表わした作品である。緩やかな円弧2つで両肩を、その間に"∩"で頭部を、その右側の直線に接するように小さな円弧を縦に2つ並べて眼と口とを、その左に配した円弧で耳を表現してい…
昨日の続きです‥。 3月28日(木)の朝日新聞一面コラム「折々のことば」は、三浦雅士さんの「記憶は身体なしに成立しえない」という「ことば」で、いつものように鷲田清一さんの、次のような解説がありました。 『記憶は、脳というよりは口の記憶、耳や手の記憶としてある。 詩歌はまずは一つの口調として記憶され、読むことのみならず思考も文体に同調することで起動すると、 評論家は言う。そして文字を介したさらに抽象的な思考への展開さえも、聴覚から視覚への移行という、 身体回路の変換に負うと。経典の暗記も身体的訓練。とすれば、おそらく道徳も。「考える身体」から。』 中高生の頃、英語の単語をノートに何度も書き写して…
歌仙の満尾を寿いで,三浦雅士氏、長谷川櫂氏の対談を、近くでうかがえて楽しかったですね。 三浦氏は「虚構と人生」みたいな、いわばプルースト的な命題から始まって、多様な話題を悍馬に例えるなら、それぞれの馬に目いっぱい鞭をくれながら,何頭も繋いだチャリオットを思った方向に向けていくというディオクレスも土下座する手綱さばきをみせつけていらっしゃいました。 詩の書かれた場所、歌仙の場というものから、地霊について話が及び(ドゥエンデなんて言葉きいたの何十年ぶりかしら)、大岡信の「宴と孤心」の「宴」というものにどうやって落としてゆくのかな、とよそながらに危惧していたら、見事に山中温泉と、大岡信丸谷才一、井上…
政治家が、うら金をためこむ。 うら金をためていた政治家は、ほとんどつかまっていない。うら金の額が三〇〇〇万円を超えたほんの数人の(大ものではない)政治家しかつかまっていないのである。 うら金をためていた政治家はほとんどつかまっていないけど、それでよいのだろうか。 修辞学の議論の型(topos)の比較からの議論によって見てみたい。 比べてみると、より強い理由(a fortiori)によって、うら金をためていた政治家は悪い。なおさら、うら金をためていた政治家は悪い。そう見なすことがなりたつ。 お金がない。食べものを買うお金がない。そうしたことで、おにぎりを一個ほど、お金を払わずに取ってしまう。お店…
展覧会『間瀨結梨奈『「のぞくあしもと」』を鑑賞しての備忘録Bambinart Galleryにて、2024年1月17日~~2月3日。 主に馬や鳥をモティーフとしたノスタルジックな雰囲気を持つ絵画16点で構成される、間瀨結梨奈の個展。 《untitled》(410mm×318mm)は、厩舎で柵越しに少女に対して頭を差し出す馬を、主に黄を帯びた茶と水色がかった緑色とで描いた作品。セピアのような色褪せた画面にはノスタルジックな雰囲気が濃厚である。夕空に3頭の馬の姿が浮かび上がる《暦》(970mm×1303mm)や高所から牧場を俯瞰した《きいろいとり》(318mm×410mm)などは山口薫を、ベージュ…
前回の初読で大感激した。それから14年。もういちど同じ気分を味わおうと、再読した。サマリーは前回の感想を参照。 odd-hatch.hatenablog.jp 幻滅、失望。 理由はふたつある。 ひとつは漱石の小説を全部読み直したこと。その結果、夏目漱石も坊ちゃんもこのミステリに書いてあるようなキャラとは思えなくなっているから。例えば、坊ちゃんを迎えた四国の温泉町の人は彼のふるまいに度肝を抜かれ関心を持ち立ち居振る舞いに影響された、ということになっている。得体のしれないまれ人が生産性を失い混とん状態の共同体を救う可能性をみようとする。まるで任侠物の主人公か流れ者のガンマンみたいじゃないか。まあ、…
藤原賢吾『人民の敵 外山恒一の半生』百万年書房 (2023) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 感想 「外山は現代では評価され得ず、未来には評価される」 この言葉は、名誉という本質への問いかけであるとともに、権威というものへの問いかけでもあるだろう。 nainaiteiyan.hatenablog.com その問いかけを行うなかで、なだいなだ『権威と権力』は非常に参考になる本だ。 外山氏の思想のすべてには賛同できないが、彼の精神力と行動力から学ぶべきことは大いにある。 民主主義について、自分はさほど突き詰めて考えたことはないが、ある程度は考えた自負…
「人種」という概念は、人類に忌まわしい歴史を刻んできた。人種差別の歴史を振り返りつつ、「人種」が生物学的な意味を持たないことを示す一方、遺伝子には、異なる祖先集団への帰属が読み取りうることを紹介。偏見やイデオロギーを超え、人類全体の尊厳を希求したサイエンス・エッセー。 「人種」については常に新刊本を読もうと努めている。私は人種、とりわけ白人種の発生について興味がある。 その際、常に私の頭にあるのは、浜松・日赤病院の皮膚科の医師である高野信夫氏が1977年に書いた「「黒人→白人→黄色人」である。これが決定的だった。 最初の人類は黒人で、アフリカに発生したと一般に考えられている。何万年前かは知らな…
須賀敦子全集 別巻 対談・鼎談 表紙 須賀敦子全集 別巻 河出書房新社 発行 2001年4月10日 初版発行 須賀敦子さんの対談・鼎談集です。 向井敏:丸谷才一さんは最初の三行で人を惹きつけなければならないと、よく言っているでしょう。 その絶品の一つ。小津次郎の『シェイクスピア伝説』の書評の書き出し 「伊勢松坂の小津家は二人の優れた文学研究者を世に送り込んだ。一人は現代の小津次郎で、・・・もう一人は江戸後期の小津弥四郎で、その専門は『古事記』と『源氏物語』である」 そして、ついでのようにこう書き添えるんです。 「念のために言ひ添へて置けば、弥四郎は後年、本居宣長と名を改めた」(笑)p29-30…
◆2024年◆ ・文藝年鑑 ・[連載]大澤聡「快楽の諸相(下)――国家と批評《第35回》」(『群像』、講談社、●-●頁、2024年6月号) ・[エッセイ]大澤聡「出版の第二思春期?」(『図書』、岩波書店、11-15頁、第905号、2024年5月号) ・[連載]大澤聡「文芸時評《4月》――マッチング小説 理想との差分が招く欲望」(『毎日新聞』、毎日新聞社、夕刊文化面、2024年4月24日) ・[論考]大澤聡「ふたつの庭、あるいは碁」(『ゲンロン16』、ゲンロン、114-131頁、2024年4月5日) ・[書誌]大澤聡「『岩波月報』総目次(一九三八年一月号―七月号)」(『近代出版研究』、近代出版研…
共同通信の記事; 作詞家、三浦徳子さん死去 「お嫁サンバ」「青い珊瑚礁」 11/14(火) 21:42配信 共同通信 郷ひろみさんの「お嫁サンバ」*1や松田聖子さんの「青い珊瑚礁」などで知られる作詞家の三浦徳子(みうら・よしこ、本名高原徳子=たかはら・よしこ)さん*2が6日午前1時21分、肺炎のため死去した。74歳。青森県出身。告別式は家族葬で行った。 1978年に作詞家デビューした。他の代表曲に八神純子さん「みずいろの雨」や早見優さん「夏色のナンシー」、松原みきさん「真夜中のドア」*3、吉川晃司さん「モニカ」、工藤静香さん「嵐の素顔」など。アイドルグループの楽曲も手がけた。ここ数年は病気のた…
作詞家の三浦徳子さん死去 享年75 松田聖子「青い珊瑚礁」など 沢田研二・工藤静香・セクゾらの楽曲手掛ける www.oricon.co.jp アップフロント音楽出版が14日、公式サイトで発表した。 我が軍だったのか…(チガウ?)。ハロプロで一番書いてるのは真野ちゃんにだったりするが。三浦雅士が兄だから、あの人も後期高齢者か。 真夜中のドア〜stay with me / 小片リサ www.youtube.com 代表曲に挙がってるので、我が軍のを。
映画『月』を鑑賞しての備忘録2023年製作の日本映画。144分。監督・脚本は、石井裕也原作は、辺見庸の小説『月』。企画は、河村光庸。撮影は、鎌苅洋一。照明は、長田達也。録音は、高須賀健吾。美術は、原田満生。装飾は、石上淳一。衣装は、宮本まさ江。ヘアメイクは、豊川京子と千葉友子。特殊メイクスーパーバイザーは、江川悦子。編集は、早野亮。音響効果は、柴崎憲治。音楽は、岩代太郎。 言葉を使えない一部の障害者は声を上げることができない。ゆえに障害者施設では、深刻な問題が隠蔽されるケースがある。 かつてあったことは、これからもありかつて起こったことは、これからも起こる。太陽の下、新しいものは何ひとつない。…
展覧会『中村桃子個展「nestle」』を鑑賞しての備忘録Lurf MUSEUMにて、2023年10月5日~30日。 女性や植物をモティーフとした絵画と焼き物とで構成される、中村桃子の個展。2階ではキャンヴァスに描いた作品と焼き物(27点)を、1階のカフェでは紙に描いた作品(18点)を展示。 表題作《nestle》(1620mm×1303mm)は、草地に並んで腰を降ろし寄り添っ(nestle)ている2人の女性を描いた作品。ダルメシアン柄のワンピースの女性に、濃紺のワンピースの女性が凭れ掛り、左手を右胸に回している。2人の女性の背後(画面左上)ではピンクのワンピースの女性(少女? 腹部から下しか見…