ジャン・グレミヨン(Jean Grémillon)による1938年作『不思議なヴィクトル氏(L'étrange Monsieur Victor)』について。 ヴィクトルがコメディアンととして登場するが、画面は何かぼやけて閉塞感に満ちている。そこに、殺人のニュースと明らかに異様な雰囲気をまとった3人の男が現れる。ヴィクトルに暗い何かが迫るように見える中、ヴィクトルが悪党へ、3人の男がコメディアンへと反転する。この冒頭から本当に良く、コメディとノアールの間を揺れ動くような非常に不安定な映画となっている。 ヴィクトルは善と悪の二面を持っているというよりも、両方が混濁して存在しているような存在として置…