細君と二人ザルツブルクを旅行した。オーストリア・アルプスが近くに見える。憧れの街だった。明るい陽光でも湿気はない、それは典型的な中部ヨーロッパの夏だった。 旅の目的はもちろん「ザルツブルク音楽祭」。100年以上の歴史を誇る世界最大の音楽祭だろう。 今年のプログラムの目玉はカール・ベームが振るモーツァルトの「フィガロの結婚」。彼の自家薬籠中のオペラだ。フィガロとスザンナにはヘルマン・プライとルチア・ポップが配役されているという贅沢さ。素晴らしい歌世界が絵巻物として、古い街に流れる夏の日。町中は音楽に満たされる。憧れのベームの生の指揮棒に触れるのは初めてだった。 しかし何故か、近代的なオーケストラ…