・蛍川(宮本輝・筑摩書房・1978年) 宮本輝の小説を読んだことはなかった。思春期の頃に触れていたら、もしかしたら少し違う自分になっていたかもしれない、そんな事を考えた。 手にした本は宮本輝のデビュー作にして太宰治賞を得た「泥の河」、それにその後の芥川賞受賞作である「蛍川」の二作を収めていた。 子供の頃、何処の河で見たのか定かではないが多分横浜の大岡川かその支流、中村川だっただろう。山下公園に親に連れて行ってもらった風景とセットだったからそれはきっと中村川だ、地図を見ながらそう考える。川とは言え人工的に掘った運河だった。そんな狭く濁った川面は港が近いのになぜか臭かった。そこに沢山の船が浮かんで…