およそ七秒。 紀州伊都(いど)郡四郷(しごう)村の某(なにがし)が、柿の実一個を丸裸にする時間であった。 特殊な器具は用いない。ごくありふれた包丁一本のみを頼りに、十秒未満でくるくると、柿の皮を剥きあげる。 ひとえに神技といっていい。 人間の手は、指先は、これほど精緻に動き得るのか。 機械顔負け、残像さえも伴いかねない俊敏ぶりに、見物に来た誰しもが息を忘れて見入ったという。 ――わたしゃ四郷の柿仕の娘、着物ぬがれて白粉(おしろい)つけて、華の浪華の祝柿。 大正・昭和の昔時に於いて近畿地方で口ずさまれた上の里謡の「柿仕」とは、まさにこうした早業を体得済みな村人どもを指したろう。 見物客には、ジャ…