日本の作家・評論家。代表作に『女ざかり』など。
1925年山形県生まれ。東京大学文学部英文学科卒業。
1952年、季刊同人雑誌『秩序』を創刊し、『エホバの顔を避けて』を連載。同作は1960年に刊行。1968年に『年の残リ』刊行し、同作で第59回芥川賞を受賞した。
1972年に『たった一人の反乱』、1982年に『裏声で歌へ君が代』を刊行。1993年には『女ざかり』を刊行し、翌年には映画化された。
2012年10月13日、心不全のため死去。87歳。
など。
その他。
ほか。
久しぶりで新聞で丸谷才一さんの名前を目にすることにです。数日前には 友人からのラインに丸谷才一さんに関する話題がありで、これは丸谷さんの本を 手にするようにとのことなのかな。 まずは、本日の新聞からですが、そこに「丸谷才一と台湾独立運動」という見出 しがありまして、これの書き出しからは、次のようになります。 「丸谷才一の長編『裏声で歌へ君が代』に『台湾民主共和国大統領』の洪圭樹 なる人物が登場する。これにはモデルとなった廖文毅という政治家がいる。 戦後、中国国民党の圧政が始まって台湾を脱出して東京に臨時政府を樹立、大統 領となり、台湾独立の旗を振った。その後、国民党政権に脅迫めいた説得をされて…
★★★★☆ あらすじ 新聞に書いたある記事が原因で政府から圧力をかけられ、論説委員から外されそうになった女性は、あらゆるコネクションを使って真相を探り、それを阻止しようとする。 感想 政府に圧力をかけられ、異動させられそうになった新聞社の女性社員が主人公だ。どうやら背後に宗教団体の働きかけがあるらしいとか、政府がマスコミに圧力をかけるとか、まるで今の政治を見ているかのようだ。きっとこの時代から政治は何も変わっておらず、それどころかむしろ酷くなっているのかもしれない。悪い意味で感慨に耽ってしまう。圧力に簡単に屈してしまう新聞社も同様だ。 自民党の統一教会汚染 追跡3000日 作者:鈴木エイト 小…
須賀敦子全集 別巻 対談・鼎談 表紙 須賀敦子全集 別巻 河出書房新社 発行 2001年4月10日 初版発行 須賀敦子さんの対談・鼎談集です。 向井敏:丸谷才一さんは最初の三行で人を惹きつけなければならないと、よく言っているでしょう。 その絶品の一つ。小津次郎の『シェイクスピア伝説』の書評の書き出し 「伊勢松坂の小津家は二人の優れた文学研究者を世に送り込んだ。一人は現代の小津次郎で、・・・もう一人は江戸後期の小津弥四郎で、その専門は『古事記』と『源氏物語』である」 そして、ついでのようにこう書き添えるんです。 「念のために言ひ添へて置けば、弥四郎は後年、本居宣長と名を改めた」(笑)p29-30…
★★★★☆ あらすじ 画商の男は、食事に誘った女を連れ、以前から招待されていた「台湾民主共和国」準備政府の大統領就任パーティーに顔を出す。 感想 主人公が新政府樹立を目指す台湾の友人の大統領就任をきっかけに、国家と個人の関係について考えるようになる物語だ。二人はたまたま酒場で知り合い意気投合した仲なので、主人公は友人の政治活動を知った後もそれには深く関わらず、普通の友人としての関係を続けている。政治に対して人並みの関心しか持っていない主人公と政治に真剣に向き合っている友人、二人の姿は対照的だ。 存在しない国の大統領というのも興味をそそるが、この他にもかつて右翼の大物の愛人だったという老婆や、無…
★★★★☆ あらすじ 防衛庁出向を断って天下りした元経産省の男は、妻と死別後すぐに若いモデルと再婚するが、少しずつ彼の生活に異変が生じ始める。 感想 昭和中期を舞台にした物語だ。だが最初は主人公らの暮らしぶりに戸惑ってばかりだった。主人公は地方の裕福な家の出で元官僚、天下りして今は企業の重役という、いわゆる上流階級に属する人なので、庶民とは生活や考え方が全然違う。 家には女中がいて当然で、女性は生まれや育ちでキッチリと区別して、妾のタイプと遊ぶ。結婚は有力者とのコネクションのためにあり、そんな縁談を誰かが持ち込んでくるものだと思っている。なんだかフランスの貴族を描いた小説を読んでいる時と同じく…
闊歩する漱石 (講談社文庫) 作者:丸谷才一 講談社 Amazon とりあえず、夏目漱石のことだけを書いて、本が1冊成り立っているのがすごい。 私はただのミーハーな夏目漱石好きだから、彼を分析しようとなんて思わず、ただただ面白いなあ、と思って読んでいるだけ。その面白さをこうして事細かに説明されると、夏目漱石がいかに古典や(当時の)現代文から多くのことを学んで、そこから実体験や環境、時代などを反映して、小説として昇華している、ということを気付かされて、ただただもう、その知識量と活かし方に圧倒される。それと同時に、こうして分析できるということは、つまりこの人の知識量もすさまじく、1冊で2人に圧倒さ…
笹まくら (講談社文庫) 作者:丸谷才一 講談社 Amazon ★★★★★ 私立大学の事務員・浜田庄吉は45歳の既婚者。彼の元に昔の恋人・阿貴子の訃報が届く。戦時中、浜田は徴兵忌避者として日本全国を逃げ回っており、その際、阿貴子と出会って恋仲になっていた。一方、現在の浜田は大学の職員人事に翻弄されている。課長に昇進するかと思いきや、地方に左遷されることになり……。 それから城山に登って、宇和島市を、と言うよりもむしろ、かつて宇和島市であった黒い面積を眺め、明るい青の海を眺めた。途中の家並が消え失せたせいで、海は今までよりもいっそう近くなったように見える。小さな練習機が三機、穴がいくつもあいてい…
「明月記を読む」藤原定家の日常 表紙 『明月記』を読む 藤原定家の日常 山中智恵子 著 三一書房 発行 1997年2月28日 第一版第一刷発行 昭和19年、定家と同じく戦火の中、定家が日記を始めた同じ19歳で明月記を読み始めた筆者による明月記解説書です。 はじめに マラルメ、ヴァレリー、リルケなど、西欧の詩人たちの日常もまた、定家に劣らぬ憂愁の日々だったことを、『マルテの手記』や『ドウィノ悲歌』、『海辺の墓地』などに想った著者p2 欠巻といえば、『明月記』は、いつも肝心なところが欠けていて、重大危機にある時の、限りなき悲嘆にくれている定家の心境を知ることができないうらみがある。p5 『明月記』…
ボートの三人男 (中公文庫) 作者:ジェローム・K・ジェローム 中央公論新社 Amazon 私個人としてはチーズの臭を好むものであります。 友人の医者の処方箋。いい人生の処方箋。 ビーフ1ポンド ビール6時間おきに1パイント 毎朝10マイルの散歩 毎晩23時きっかりに就寝 小難しいことはいっさい考えないこと 乗客みんな船酔いして絶対に船酔いしないジョージ。 毎日10時から4時まで銀行に居眠りしに行くジョージ。土曜日は2時に放り出される。 角を曲がったところに上等のウィスキーを出す店をいつも知ってるハリス。 雨の日にキャンプしようものならテント張りに失敗し、夜ごはんのメインは雨水になる。 自覚な…
小僧が出て行ってから五分も経つと、ノアの洪水以前の木片のようなものを引張って出て来た。最近どこかから発掘され、しかも発掘の際、不必要に損傷を受けたような傷だらけのものである。(ジェローム・K・ジェローム『ボートの3人男』、丸谷才一訳) *** 丸谷才一の『文章読本』を読んだのはいつのことだったろう。たしか学生の頃だ。「ちょっと気取って書け」という一節があったのを今でも覚えている。 文章読本といえば谷崎潤一郎だが、こちらは覚えているのは「兵語体」のみである。「~であります」とかそういうの。合っているか自信はない。 谷崎といえばビニール紐で括られた『源氏物語』がたまたま手元にある。祖母宅で長年眠っ…
4時過ぎに起きた。AI英語をこなす。こないだ届いたスーツを着て出勤してみる。 TRABALDO TOGNAというイタリアのメーカーが出してるEstratoなる、ウール100%だが、ストレッチ性も持たせてる、みたいな生地で作ってたのだが、スルリとした肌触りが良い。生地の柔らかさと、程よい光沢も気に入った。パンツはワンタックで作ったのだが(裾はダブルの4.5cm)採寸してくれたシニアな店員さんに言われていた「おとなっぽい(おじさんぽい、の婉曲表現)」感じが今の気分、だし、タックをいれると太もも部分がかなり楽なんだな、と実感する。今回オーダースーツを試してみて、タックのような装飾だと思っていたものの…
近所の生協で地元の市議会議員を見かけた。自民党所属の割に発言は完全に左寄りの人で、とはいえコープを利用するのかと、何となく不思議だった。 どうして分かったかというと、マスクを着けてなかったから。なんでマスクが気になったかというと、自分がコロナ明けだったから。 感想は、有給使わせるんだな、ぐらい。疲れやすくなったような気がするし、短期の記憶力が急激に衰えたような気もするのだが、迂闊なことは言えないのが悔しい。 休みの間、「潜伏期間」を発見できたことは僥倖だった。どうやって茅ケ崎に辿り着いたかというと、たぶん内山洋(桐山聡)から DLiP Records の流れ。 集中が続かないので短編がありがた…
BOOKOFFにて。高馬京子、松本健太郎編『〈みる/みられる〉のメディア論 理論・技術・表象・社会から考える視覚関係』ナカニシヤ出版、2021〈みる/みられる〉のメディア論作者:高馬 京子,松本 健太郎ナカニシヤ出版Amazon福岡安則『聞き取りの技法 〈社会学する〉ことへの招待』創土社、2000聞き取りの技法: 社会学することへの招待作者:福岡 安則創土社Amazon中村紀久二『教科書の社会史――明治維新から敗戦まで――』岩波新書、1992教科書の社会史: 明治維新から敗戦まで (岩波新書 新赤版 233)作者:中村 紀久二岩波書店Amazon斎藤環『承認をめぐる病』ちくま文庫、2016承認…
芥川賞受賞作を遡って読んでいるひとこと感想の続きです。80年代の分です。 1990年代:続続・芥川賞ひとこと感想日記(1999-1990) - 京都ぬるぬるブログ2.0 (hatenadiary.jp) 2000年代:続・芥川賞ひとこと感想日記(2009-2000) - 京都ぬるぬるブログ2.0 (hatenadiary.jp) 2010年代以降:芥川賞ひとこと感想日記(2022-2010) - 京都ぬるぬるブログ2.0 (hatenadiary.jp) 80年代は「該当作なし」の回多し。80年上半期、81年下半期、82年上半期、83年上半期、84年上半期、85年上半期。86年に至っては2回と…
日本の経済をよくして行く。 経済をよくするために、当たり前のことをやって行く。積極の財政だ。国の財政でお金(借金をふくむ)をどんどん使って行く。 あたり前のことをやれば、日本の経済はよくなって行くのだろうか。 ほんとうに芯のところにあることなのではなくて、芯からずれてしまう。ずれたことが言われてしまう。 まさに芯に当たることではないものが、あたかも芯に当たることであるかのようにされてしまう。ずれがおきることになる。 ずれているもののほうが、受けがよい。人々からの受けがよいことが言われることになり、どんどん芯からずれて行ってしまう。芯からのずれが大きくなって行く。 受けが必ずしもよくないのが、芯…
日曜日。気になっていたスタバのブルーベリーレアチーズケーキを食べるために朝からお出かけをしました。おかげで近場だけどあちこちをうろうろ。多肉植物が気になりすぎているので私はそろそろ上野のストーリーストーリーに行くべき。気になる子を選んでひとつの鉢にまとめる寄せ植えにも興味津々です。そういや帰り道にいつもと違う道を通ったらやたら緑が多い道を歩くことになったんですけど、観葉植物を好きになったおかげで住宅街を歩く時にお庭に生えている樹や生け垣といった地面に植わってる植物に対する目線と感慨も変わりました。ここまで大きく美しく成長することの苦労とか費やされる長い時とかにも思いを馳せるようになったことに時…
Masculin:というわけで、今日は吉行淳之介氏の百回目の誕生日なんです。早いもので亡くなってからもちょうど三十年で。 Féminin:そうよね、「第三の新人」の皆さんは大正生まれで、ウチの父も同世代だったから…ねぇ、そもそも貴方はいつ頃から吉行さんの愛読者だったの? M:ウ~ン、多分お姉様と知り合う少し前、高校に入った頃じゃなかったかなぁ。ほら内外の作家を手当たり次第に乱読していて、たまたま第三の新人諸氏に惹かれるものが。それも小説以上にエッセイで、同じようなことは僕と同世代の坪内祐三や福田和也も書いてましたけど。 F:良かった、小説からじゃなかったのね、吉行さんの。 M:どういう意味かな…
新聞をヨム日(2024年4月6日『山陽新聞』-「滴一滴」) 岡山市のJR岡山駅にほど近い奉還町商店街。3月下旬、地元関係者に案内されて探索する高校生たちの姿があった。岡山南高の新聞部のメンバーだ。何と、学校新聞の「奉還町支局」を近く立ち上げるという ▼生徒らは、商店街の端から端まで丹念に見て回った。車社会の進展などでかつてのにぎわいが失われたが、近年は若者らが次々、空き店舗にカフェなどを出店している。アーケードに掲げられた古い店の看板と、現在の店名が違っていることなどを確認した ▼支局は、中高生が集まる施設「ユースセンター」の中に設ける。取材拠点にして商店街の店や人々の動きを記事にし、魅力を校…
芥川賞作家の加藤幸子さん死去、87歳…「夢の壁」「長江」 2024/04/04 11:05 訃報 スクラップ 芥川賞作家の加藤幸子(かとう・ゆきこ)さんが3月30日、心不全で死去した。87歳だった。葬儀は近親者で済ませた。 ワニブックス社長の横内正昭氏が死去、73歳 加藤幸子さん(2011年7月) 札幌市生まれ。5歳から11歳まで中国・北京で育ち、北大農学部を卒業した。少女時代の体験を踏まえ、日中の子供が主人公の作品を残した。1983年に「夢の壁」で芥川賞。「長江」で毎日芸術賞。ほかの著書に「家のロマンス」など。日本自然保護協会での勤務経験があり、野鳥の保護活動にも熱心だった。 芥川賞のすべて…
およそ20年ぶりくらいで、カズオ・イシグロ氏の『日の名残り』を読み返しました。私は2001年発行のハヤカワepi文庫版を持っていて、かつて読んだときにとても感動したことだけは覚えていました。でも今回、ふと書棚から手にとって読みだしたら、おおまかなプロットはともかく、細かい内容をほとんど覚えていなかったことに驚きました。 日の名残りですから、まあ、もう一度この小説を楽しむことができてよかったわけですが、20年ほどでこんなにも内容を忘れちゃうものかなあと。というよりこれは、20年前の自分ではじゅうぶんに読み解けなかった、味わい尽くせなかった部分が多かったということなのでしょう。事実、今回は読み終わ…
香子(二) 帚木蓬生 PHP研究所 図書館本 香子(一)に続けて、内容の濃い500頁に一週間かかった。 香子(紫式部)の結婚と出産、父母の帰京、祖母の死、夫宣孝の死、中宮への出仕と変化していく時に、源氏物語のどの部分が書かれていったのかがわかるように構成されている。『源氏物語』の紅葉賀から朝顔までの各帖が、香子のライフステージと共に提示されている所が面白い。 祖母や夫と死別したことの哀しみから逃れるようにして書いた「須磨」の帖では、登場人物たちの切ない感情が細やかに表現されている。それに続く「明石」の帖では、明石の入道の滑稽な場面が書かれていいて、香子が少し元気を取り戻したように思える。帚木蓬…
朝刊を広げたら、見開き一杯に幾つも顔面アップの漫画のコマ、なんだこれ、と思ってよく見ると講談社の全面広告でした。「もしヤンマガキャラが先輩だったら」という大見出し。ヤングマガジンというコミック誌の宣伝のようです。 「中間管理職の意見ってのは、あっさり曲がる」、「遅刻したら、大切なのは、急いできた感」、「感謝のメール、反論しない、大きめに頷く、これが忍法処世術」、「しっかりホウレンソウしとけよ、あとは上司の責任」、「メモとってるフリ、だいじ」等々漫画論法のお役立ちメッセージで紙面が埋まっています。タメになる名言よりダメになる迷言、未熟さもカッコ悪さも受け入れて、キミのままで社会を生きる助言、なん…
Masculin:これをわが家でご覧いただいたのは、もう四半世紀ほど昔、まだVHSビデオの頃で。憶えてらっしゃいます? Féminin:うん、そうだったわね…あら、ちょうど今日…4月1日じゃなかった? M:そうなんですよ、いやその日にこそ観ていただきたかった映画だったんで。また公開時、丸谷才一氏がまさにその「エイプリルフール!」って題で批評を書いてらして。だけどあの晩、ラスト直前のお姉様のお顔ったらなかったですね。名うての美女がポカンと口を開け、あんなにも呆気にとられて(笑)。それまでの、いやその後の長いお付き合いでもおよそ見たことのなかった無防備さだったからなぁ。 F:ウ~ン、だってメインス…
『近代作家追悼文集成[25]寺田寅彦』(ゆまに書房平成四年)に収める鈴木三重吉「寺田さんの作篇」に、ある日夏目先生のところへ伺うと、先生は「今寺田が帰つたところだがね、僕がアインシュタインの原理といふのは大体どういふことかねと聞いたら、それは話したつて先生には分らないな。と言つたよ」と苦笑されたとあった。 あっけらかんとした人間関係であり、安倍能成が、漱石門下での寺田寅彦の扱いは「お客分格」で、夏目先生は若い者たちの美点と長所とを認められたけれども、寺田さんに対する尊敬は別であったと述べているのはこうしたところにも現れているようだ。 鈴木三重吉は寅彦の人間像について、われわれの周囲の、すべての…
左派の政党の政治家が、テレビ番組に出ることをこばむ。番組に出てほしいと言われたのをこばんだことへ、批判が投げかけられている。 たとえどのような番組であったとしても、出てほしいと言われたら、政治家は必ずその番組に出なければならないのだろうか。何が何でも番組への出演の依頼を引き受けなければならないのだろうか。 たとえ番組に出てほしいとたのまれたのだとしても、それを引き受けるか引き受けないかは、政治家の自己決定にまかされることだろう。番組に出たほうが良いとはかぎらないし、出ないのが悪いともかぎらない。 テレビ番組に出るかそれとも出ないかは、何々であるの事実(is)だ。何々であるの事実をもってして、何…