禪智内供の鼻と云へば、池の尾でも知らない者はない。長さは五六寸あって、上唇の上から顎の下まで下がってゐる。形は元も先も同じやうに太い。云はゞ、細長い腸詰めのやうな物が、ぶらりと顔のまん中からぶら下がってゐるのである。 で始まる『鼻』は、大正5年(1916)2月15日発行の『新思潮』創刊号に「芥川龍之介」の署名で掲載されました。 第四次「新思潮」創刊のメンバー 左から久米正雄、松岡譲、芥川龍之介、成瀬正一※ 京都帝国大学に進学した菊池寛は写っていない。 【漱石の励まし】 大正4年(1915)11月、芥川は意欲作『羅生門』を「帝国文学」に発表しますが不評で自信を失いかけていたそうです。一方、久米正…