石野英夫:画。「とうよこ沿線」64号より無断切取りさせていただきました。 横光利一の初期代表作『日輪』が、フローベール作品から刺激を受けた作品との指摘は古くからされていて、今では学界常識となっているのだろう。もう一つの例を、わたしは面白いと思っているのだが。 『蠅』は田舎の村から町へ貨客を運ぶ、とある乗合馬車に起った顚末である。 定刻近くなったが、馭者の姿はない。駅舎となっている茶店で饅頭が蒸しあがるのを待っているのだ。近くではセイロがさかんに湯気を噴き出している。 町に仕事相手を待たせている紳士が、馬車の脇でやきもきしている。家族に会わねばならぬ中年婦人がおろおろしている。近くの雑木林からは…