稲妻左近捕物帖:九鬼紫郎 1952年(昭27)同光社出版刊。 1950年(昭25)4月および12月、雑誌「富士」に2篇掲載。 探偵雑誌「ぷろふいる」の編集長を長年務めた九鬼紫郎が九鬼澹(たん)の名義で発表した南町奉行所同心の稲妻左近の活躍する捕物帖10篇を収める。捕物名人というふれ込みだが、あまり個性は目立たない。むしろ手下の岡っ引「脂下り(やにさがり)」の吉五郎の仇名の意味「得意がってキセルを上に向けてふかす姿」を思わせる恰好つけに妙味がある。トリックの組立てにやや苦しい事件もあるが、女っ気はない。篇中の「変貌伝」は南町奉行所内での事件で、当時の生活ぶりが感じられ、緊張感もあって充実していた…