大正三年十一月十六日に認可の下りた特許二六八四九號、『四季常用魚類乾燥装置』の明細書を紐解くと、一目で面白い事実に気付く。 発明者の名が、日本人のそれ(・・)でない。 ゲオルギー・イワノヴィッチ・ソコロフ。 帝政ロシアの民である。 (樺太にて、鰊の「棚掛け」、乾燥過程) バーチャスミッション、スネークイーター作戦等々、『MGS』を知る者ならば、一種特殊な反応を示しそうな名であった。 生まれはオデッサ、黒海に面した、例の街。 「例の街」で十分罷り通るほど、ここ数年で急速に、一般的な日本人の鼓膜にも親しくなった名の土地だ。 ソコロフの家は、ここで代々、水産加工食品を作って売って稼業としてきたものだ…