君失うことなかれ:富田常雄 1953年(昭28)東方社刊。 1958年(昭33)東京文芸社、富田常雄選集第8巻所収。 タイトルの「失ってほしくない」と願うのは、女性の心と身体の両方の処女性と言えるものを指していると思われる。ここでも終戦直後の東京郊外の世相が背景となり、開放的になった男女関係、特に姦通や堕胎の問題を産婦人科の女医歌子とその妹の教師秀子の生き様を中心に描いている。他に下宿屋を営む未亡人、そこに住む貧乏画学生と放蕩者の大学生、元連隊長という自尊心を捨てて細々と鰻屋の屋台を張る中老の男など、人物像の書き分けも巧みで読後感が充たされた。☆☆☆ 国会図書館デジタル・コレクション所載。個人…