私は薄暗い劇場に入り、 期待に胸を膨らませて座席に座る。 緞帳がゆっくりと上がり、 舞台に現れたのは壮麗なオーケストラ。 指揮者のタクトが動き出すと、 一糸乱れぬ音の洪水が私を包み込んだ。 ヴァイオリンの澄んだ音色、 チェロの深みのある響き、 ホルンの力強い旋律。 それぞれの楽器が織りなすハーモニーは、 私の全身を包み込んでいた。 目を閉じて耳を澄ませば、音の波に乗って、 どこまでも遠くへ旅をしているような気分になった。 私の心をどこまでも自由な場所へと連れて行ってくれる。 それは、まるで夢の中にいるような感覚だった。 あの日、私は初めてオーケストラの生演奏を聴いた。 それまでCDでしか聞いた…