「開発は、進むほど湖を汚したんですねえ。」 「今だから言えることです。貧しさから豊かさに向かうとき、日本じゅう政治も一人一人の暮らしも、豊かさを求めたでしょう。」 『琵琶湖周航殺人歌』(1990年, 水谷豊版「浅見光彦ミステリー8」より) 金田一耕助と浅見光彦を隔てるものは高度経済成長だと思う。滅びゆく古き日本を看取るのが金田一。すでに忘れられつつある古き日本を訪ねるのが光彦。 横溝正史の金田一耕助シリーズは主に戦後間もない昭和20年代ごろを舞台としており、封建的支配階級の宿業と破滅が描かれる。対して内田康夫の浅見光彦シリーズの代表作は主にバブル経済期前後に書かれており、当時すでに風化しつつあ…