接待帰りの車内というのは、たいてい半分が仕事の続きで埋まっている。明日の訪問先、詰めきれていない見積もり、部長にどう説明するか。稲葉十吉の頭の中もそんな具合だったはずで、ヘッドライトの先に人が倒れているのを見つけるまでは、その夜は最後まで平凡に終わる予定だった。 道端にいたのは、すでに手遅れなほど血を流した男だった。裏社会で「二丁」と呼ばれる殺し屋。彼は最期に電話をかけ、自分の雇い主へ向かって勝手な取り決めを残す。標的を仕留めて自分の女を助けたなら、全財産はこの男にやる。しくじったら、この男と家族を皆殺しにしてくれ。そう言い残して、目の前で息を引き取る。 十吉は銃を撃ったことがない。裏社会に知…