「かく、こまかにはあらで、 ただ、おぼえぬ穢らひに触れたるよしを、 奏したまへ。 いとこそたいだいしくはべれ」 と、つれなくのたまへど、 心のうちには、 言ふかひなく悲しきことを思すに、 御心地も悩ましければ、 人に目も見合せたまはず。 蔵人弁を召し寄せて、 まめやかにかかるよしを奏せさせたまふ。 大殿などにも、 かかることありて、 え参らぬ御消息など聞こえたまふ。 日暮れて、惟光参れり。 かかる穢らひありとのたまひて、 参る人びとも、 皆立ちながらまかづれば、 人しげからず。 召し寄せて、 「いかにぞ。今はと見果てつや」 とのたまふままに、 袖を御顔に押しあてて泣きたまふ。 惟光も泣く泣く、…