1887年(明20)金松堂刊。維新後20年経過して世情が安定してきた頃に、西欧思想を一般国民に教化させる目的で多くの翻訳物が出版された。この小説もその一つで、ロシアに住む三兄弟がナポレオン軍の遠征によって離れ離れとなり、多くの艱難の末にシベリアで再会を果たす物語。原作者はフランスのドンベイ氏及び男(Dombey et fils) と表記しているが、この名前はディケンズの小説『ドンビー父子』以外にはどこにも見つからない。しかもディケンズの作品はこの小説の内容と一致しない。訳者の大石高徳は文法書も著した黎明期の仏語学者で他にも訳書がある。訳文は旧来のままの堅苦しい漢文調(下記用例)だが、日付が詳し…