いつも、“お守り”のように大切に引き出しにしまっている一篇の詩がある。吉野弘さんの「一枚の絵」。恐らくエッセー集からコピーしたものだろう、1978年12月と吉野さんの自注があるが、吉野さんのどの本で読んだものかどうしても思い出せない。 一枚の絵がある 縦長の画面の下の部分で 仰向けに寝ころんだ二、三歳の童児が 手足をばたつかせ、泣きわめいている 上から 若い母親のほほえみが 泣く子を見下ろしている 泣いてはいるが、子供は 母親の微笑を 陽射しのように 小さな全身で感じている 「母子像」 誰の手に成るものか不明 人間を見守っている運命のごときものが 最も心和んだときの手すさびに ふと、描いたもの…