住み馴《な》れし 人はかへりてたどれども 清水《しみづ》ぞ宿の主人《あるじ》がほなる by 明石の尼君🪷 〜かつて住み慣れていたわたしは帰って来て、 昔のことを思い出そうとするが 遣水はこの家の主人のような 昔ながらの音を立てています 【第18帖 松風 まつかぜ 21】 「一度捨てました世の中へ帰ってまいって 苦しんでおります心も、お察しくださいましたので、 命の長さもうれしく存ぜられます」 尼君は泣きながらまた、 「荒磯《あらいそ》かげに心苦しく存じました二葉《ふたば》の松も いよいよ頼もしい未来が思われます日に到達いたしましたが、 御生母がわれわれ風情の娘でございますことが、 御幸福の障《…