莫言(1955 - )。2012年、ノーベル文学賞を受賞。授賞理由は「幻覚的なリアリズムで民話・歴史・現在を融合させた」功績による。 最初に莫言を知ったのは、張芸謀(チャン・イーモウ)監督の映画『紅いコーリャン』の原作者としてだった。衝撃的な赤色を効果的に使いこなす、色彩主義の映画と理解した。 地平線までコーリャン畑が続く山東省の穀倉地帯(すなわち酒処)を舞台とする、主人公夫婦のロマンチックな物語は面白かったが、酒蔵杜氏のリーダーたる共産党員や後半にいたって侵入してくる「残虐」日本軍の描きかたが紋切型で、なんだか共産党のプロパガンダ映画の匂いもした。 短篇をひとつふたつ読んでから、『酒国』に出…